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夜の叫び

見たくないものまで見えるんだもん。手元を見れば世界がタイムラインに。
聞きたくないものまで聞こえるんだもん。電話が掛かればすぐに出ちゃう。
言いたくないことまで言っちゃうんだもん。分かんなくて。

やめてくれ。これ以上私を悩ませないでくれ。楽しそうにしないで。お気遣いありがとう。でも、違うんだ。せっかく距離をとったのに。ずっと離れていればいいんだ。急に近づいてくるのだけはやめてくれ。そんなにニコニコしないでくれ。笑顔で返す顔なんて今の私は持っていないんだから。びっくりしてしまうから。そして、戸惑ってしまうから…素直に喜べないから…

背中を向けて歩き出す。
すると、大きな声で呼び掛けてくる。楽しそうに。悲しそうに。振り返るとその人の笑顔と、私の歩いてきた道のりが否応無く目に飛び込んでくる。あのときは大好きだったものが…。嫌いになろうとする。嫌いになればいいんだ。そしたら声をかけてきても振り返らなくてすむのだから。

好きになるのはちょっとしたきっかけがあればいい。嫌いになるのもちょっとしたきっかけがあればいい。そう思っていた。簡単だと思っていた。そんなことはない。全然釣り合ってない。好きだったものを嫌いになるなんて好きになるより何倍も苦労がいるものなんだ。
だから諦めちゃう。嫌いになることなんて諦めちゃう。だって嫌いになることがこんなにも疲れるなんて知らなかったのだから。困ったもんだ。どうすればいいんだろう。私は立ち止まる。じっと、頭を抱える…

歩き始め。自分のフィールドに入り始め。分岐点。少し隣を覗けば自分とは違う道を歩く人が見える。まだ分岐の始めたばかりだから隣が見える。隣の人を見ると、とても輝いていて羨ましく見える。少し話をしてみる。なんてすごい人なんだ…。あんな道を行くんだ!すごいなぁ!自分にはない装備を持ってる。羨望、嫉妬、憧れ。眩しいものを見ると綺麗と思うけど前が見えないし残像が残るからイラッとくる。

自分にはないものを持っている人を見ると「それを持っていなくてはいけない!」と思ってしまう。この感情って自分と他人を比べていてちょっと醜いけれども、素敵なものを見るからこそ感じるものなんだろう。これらのちょっと醜い感情ばかりで終わらずに、「素敵だなぁ!」と素直に受け入れるところまで進みたい。

歩き出せば隣の道はどんどん見えなくなるしそんなことを気にしている余裕なんて無くなるんだろう…

そう信じて私はそっと目を閉じ、耳を塞ぎ、口をつぐんだ…


至極この世は生きにくい。