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ウクライナ侵攻、人が死ぬ理由を思う

ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵攻について、テレビの番組に出演した元外交官が、21世紀においてこのようなことが起こるとは信じられないと言っていたが、まことにそのとおりで、漠然と信じていた世界秩序が崩壊したことに慄然とする。

プーチン大統領はボケている

暴挙の主人公プーチン大統領には、どうみても老人特有の症状が出ている、つまりボケている。ボケによる蛮行なのに、彼を正気であるとして世界が対策を議論しているのはどういうわけか。お屋敷に棲む認知症のジジイが「隣のやつらは我家を狙っている」と叫んで、隣の家に殴り込んでいる状態なのだが、このジジイは権力と危険な核まで持っているからたちが悪い。

生物学者・小林武彦は、著書「生物はなぜ死ぬのか」で、人間は55歳ぐらいから遺伝子のコピーにエラーが増えると言っている。生物としての老化が始まるのだ。プーチン大統領の姿は、晩年に朝鮮出兵をした豊臣秀吉に重なる。家臣に恩賞を与えるための出兵だったという説が有力だが、真実は耄碌した秀吉が猜疑心と妄執に囚われて家臣の意見を聞かなかっただけであり、説は後付けだろう。

同著は、中立進化論から生物や人間が死ぬ意味を説明している。中立進化論では、「遺伝子は偶然によって生かされる」ので多様性が必要であり、変異によって多様化した遺伝子は次世代が持つので、現世代は死んで世代を譲る必要があるのである。

ウクライナ侵攻をみると、人間が死ぬというのは、他の生物の死とは別の意味があるように思う。

死は平等、それは救い

今のところ人間の死は平等である。独裁者の命は、国民の命と同じである。国民は一生を一人の独裁者の下で過ごさなくても良い。独裁者が死ねば解放される可能性が高まる。世襲により独裁が続くなら、悲しいことだが自分が去るときがやってきて解放される。

フランク・ハーバートのSF小説に「砂の惑星」がある。人類が宇宙に拡散した世界を描いたシリーズである。その一つの「砂漠の神皇帝」では、主人公レト・アトレイデが砂漠に棲む「砂虫」と合体して神皇帝になり、3500年に渡り帝国を統治する。

神皇帝は、抑圧的であるが安定した政治をする。もし暴君であれば、国民は何十世代も苦しめられ死のみが救いとなる。

人類の歴史には、暴君や独裁者が多く登場する。古くはローマ帝国の皇帝カリギュラやネロ、殷の紂王や隋の煬帝がいて、近代にはソ連のスターリンや中国の毛沢東がいる。プーチン大統領や習主席もそちらに分類されるだろう。

スターリンは、多くの人を粛清したうえにホロドモールで1000万人以上のウクライナ人を餓死させた。毛沢東は、大躍進政策で3000万人(正確には分からない)を飢え死にさせ、さらに文化大革命で人民を苦しめた。この独裁者たちは、ヒトラーよりも多い人を死に追いやっている。それにも関わらず、二人は権力を失うことなく寿命を全うしている。

もし、スターリンや毛沢東が150歳まで生きたとしたら、どうなったのだろう。権力を持ち続けながら、老いて判断力を失ったら、いったいどれくらいの人が死んだのだろうか。

スターリンは74歳、毛沢東は83歳と普通に亡くなった。彼らの寿命が、国民と同じであったのは救いだった。人の寿命を伸ばすのはけっこうだが、このような危険性はどう考慮すれば良いのだろうか。

ウクライナ侵攻は、権力を確立した独裁者は排除できないことを示している。中国では、習主席が覇権主義を掲げて国際秩序や人道に挑戦し続けているが、誰も止めることはできない。大統領や主席の多選を禁止する法律や慣行は、廃止されてしまっている。早い段階では止められかもしれないが、もう遅い。

恐ろしいことに、スターリン、毛沢東、に続く現代の独裁者プーチン、習近平は失脚しない。彼らは、失脚を防ぐ有力な手段は情報の統制と監視であることを知っている。

テクノロジーは独裁者に味方する

現代の発達したテクノロジーは、情報統制や盗聴そして監視を容易にし、独裁者は政敵や敵対者が力をつける前にを発見して葬ってしまう。テクノロジーの発達につれて、独裁者の目や耳は社会のより隅々にまで及ぶようになるのだ。

現代の技術は、人が隠れて相談するのを許さない。中国では、人民は10億台のカメラで監視され、電話やメールは盗聴、買い物の中身まで全て政府に把握されているという。

民主主義国家でも、技術的には同じようにできるだろうが、情報を活用する独裁者はいない。国民は、民主主義を守れば首相や大統領を選べる。ただ、「任期を制限する法律」の変更を許せば、独裁が可能になってしまう。


歴史家、ユバル・ノア・ハラリは言う、コロナのパンデミックによって、普段なら長い議論を必要とする監視や法律が簡単に認められてしまった。仕方はないことであっても、安易な決断は危険であると警告する。

ユバルの例え話は怖い。感染症対策のために、体温や脈拍を管理する装置を身体につけ、データを政府が管理する法律ができるとする。その法律は、北朝鮮でも施行される。金正恩総書記の演説を、手を振り熱狂的に聞く人がいる、だが、その人の装置が怒りの感情を示すデータを送信していたら。独裁者はやすやすと敵対者を見つけられる。

かくして、未来の独裁者は強くなる一方である。スター・ウォーズの帝国軍やトータル・リコールのコーヘイゲンやジョージ・オーウェルの1984年は想像だけの話ではない。

民主主義は、良い仕組みである

「百善をなすとも、一悪を為さざるにしかず」という言葉がある。百の善行より、一つの悪行をしないのが世のためになるという教えだ。民主主義は、百の名君よりも一人の暴君の誕生を防ぐ仕組み、と言っていいと思う。

凡庸な君主は人を苦しめないが、一人の暴君は塗炭の苦しみを与える。民主主義は、国王の暴政に苦しんだ西欧の素晴らしい知恵である。だから国民は、今の為政者が優秀だからといって、安易に任期を制限する法律を無くしてはいけない。

民主主義国家が減り、非民主主義国家が増えているそうである。独裁者は始めは優しい、独裁は効率的であり政策の効果がよく見える、民衆はそれに惑わされ権力を与えてしまう。やがて、独裁者はその真の姿を現す。そうなれば、もはや手遅れなのである。独裁者に老いの症状が出てくるとロシアのようになる。

ロシアの人たちは、プーチン大統領に一時の人気から選挙制度の変更を許してしまった。彼らは、その代償として世界中から手酷い仕打ちを受けながら、彼の寿命が尽きるまで独裁のもとに生きねばならない。

ロシア人兵士はウクライナへの侵略者として死んでいく、ウクライナの兵士は祖国防衛の英雄として死ぬ。残された家族にとって、その差はあまりにも大きい。もう長くない現世代の人物が、次世代の若者の未来を奪うのは、生物としても間違っている。ウクライナ侵攻を行ったプーチン大統領はボケていると言わざるを得ない。

民主主義にはいろいろな欠陥があるが、人間の死に頼らなくても良いところは、たいへん良くできていると思う。


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