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雑誌『ゲンロン』

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雑誌『ゲンロン』に掲載されている論文や小説の感想です
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#ゲンロン13

葛藤をとりもどせー東浩紀「訂正可能性の哲学2、あるいは新しい一般意志について」を読んでみた

陰謀論、フェイクニュース、ポピュリズムが蔓延したディストピア。 人間がつくってきた世界がこんなにも荒涼としていて、もはやどうすることもできないのなら、AIにもっとましな世界をつくってもらおう。ラッキーなことに、二十数年後には人間より機械の方が賢くなることだし。 現在大きな影響力をもつ論客(落合陽一、ユヴァル・ノア・ハラリ、成田悠輔)たちは、ざっくりいうと、このような考え方に基づき新しい制度、機械に判断を委ねる民主主義(「シンギュラリティ民主主義」)を提案しています。 シンギ

異星人VS後鳥羽上皇の歌バトルー田場狩「秘伝隠岐七番歌合」を読んでみた※ネタバレあり

鎌倉殿の13人。いよいよ大詰めですね。 北条義時VS後鳥羽上皇を楽しみに待っていたら、なんと後鳥羽上皇(と藤原定家)を主人公にしたSF小説に出会ってしまいました。 田場狩の「秘伝隠岐七番歌合」(『ゲンロン13』2022年10月)です。 以下ネタバレあります。 設定とあらすじ時は承久の乱のあと。 現代の人類よりも科学が発達した異星人が地球にやってきます。 目的は自分たちの言葉の拡張です。というのも異星人たちは誤解のない意思疎通しかできないのですが、いろんな星の生物とのコ

手でみるー鴻池朋子「みる誕生」を読んでみた

私はアートとは縁遠い生活を送ってきていまして、現代アートが何をしているのか、ほとんどわかっていません。 そんな私が一人の現代アーティストの文章と出会いました。 その文章は、定期購読している雑誌にたまたま掲載されていました。 こういう偶然があるから雑誌はやめられません。 出会ったのは鴻池朋子の「みる誕生」。 雑誌『ゲンロン13』(2022年10月)に掲載されていました。 読むと、アーティストが何をやろうとしているのか、ちょっとだけわかったような気がしました。 それは、純文学

主語が「私」になる前にー星泉「羊は家族で食べ物で」を読んでみた

明治神宮で絵馬に興味をもったチベット人がいました。 その人が絵馬に願いごとを書きました。 私が今まで神社で願っていたことといえば、私とせいぜい家族の幸せくらいでした。人類、いや日本人の幸せですら願ったことがありません。 なぜそのチベット人は全生き物の幸せを願うことができたのか。そのヒントをもらえる文章に出会いました。 それはチベット語学者 星泉の「羊は家族で食べ物で」(『ゲンロン13』2022年10月)です。 「羊は家族で食べ物で」によると、チベット人に比べて私が小さ

ナイチンゲールの二つの顔ー大脇幸志郎「動物のような人間とホワイトアウトしたナイチンゲール」を読んでみた

コロナ。なかなかおさまりません。今は第八波到来?とのニュースが飛び交っています。 コロナ対策については、ずっと違和感があるのですが、その違和感を説明してくれている文章に出会いました。 「動物のような人間とホワイトアウトしたナイチンゲール」(『ゲンロン13』2022年10月)です。今回はこれについて考えます。 著者は医師、翻訳者の大脇幸志郎。著書に『「健康」から生活を守る』(生活の医療社)、『医者に任せてはいけない』(エクスナレッジ)があります。なかなかアツいタイトルたちで