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第三十九話【歓談】(Vol.381-390)

Vol.381
何を話していいのか分からない
【歓談】

名前、所属、何をしているのか
ぐらいしか思い浮かばない。

あとできることといえば
「ヘェ〜そうなんですね」という
相槌程度

これじゃ〜話が盛り上がるはずもなく
そそくさとビールを持って
来賓へお酒を注ぎに回ることにしたのだが

ピンチとなる




Vol.382
初めて会う役員に酒を注いで回るボク

「失礼します。施設でお世話になることになりました。ヒロです。よろしくお願いします」

「おぉ〜ヒロ兄さん。よろしく」

グラスにビールを注ぎながらお辞儀する。

「あれ?ヒロ兄さん。兄さんも呑まな」

「えっ、私ですか?」
(このあと仕事が)




Vol.383
迷っているボクをさておき、
そばにあった紙コップを渡された。

断るわけにもいかず。

「では」

「うむ」

ジュワワ

美味しそうなビールが注がれてゆく。

(あ〜こいつは危険だ)

「これからのヒロ兄さんに乾杯」

そう言って役員は飲み干した。

「ガハハハ」
豪快な高笑いが広がった




Vol.384
ボクも恐る恐る
コップに口をつける。

ボクは酒に弱い。
すぐに顔が赤くなる。

(絶対に怒られるやつやん)

そう思いながら酒を注いで回った。

隣の席に座っていた役員は
かつて施設の園長先生だった。
現在は退職し、奥様が現施設の
園長先生だ。

そうボクの園長先生のご主人さんだった




Vol.385
「失礼します。ヒロです。よろしくお願いします」

挨拶を済ませ、ビールを注がせてもらう

「こりゃありがとう。お返しにどうぞ」

「ありがとうございます」

「そんなに固くならんでもいいよ
 キミがヒロくんか。名前は聞いてるよ」

ボクは一瞬焦った。
いい話?悪い話?どっちなんだい!




Vol.386
「子供に向き合って頑張ってるって聞いてるよ」

それを聞いてホッとした

と同時に、聞いてみたいことを思い出した。

「すいません。教えてもらっていいですか?」

「どうしたんだい?」

「あの、ボク特別な知識とか何ももってないんですが、子供たちに何をしてあげればいいでしょうか?」




Vol.387
「ヒロ兄さん
特別なことなんかないんやで
何かしてあげるとか考えずに
とにかく“遊ぶ“ことが大事なんや
私がお願いするとしたら
“一緒に遊んだって“
ってことやね
一緒の時間をすごすことが大事やねんで」

元園長先生の話がズシンと心に響いた
(これがボクの原点だ)

#心のメモ に刻んだ




Vol.388
「えっ、一緒に遊ぶことでいいんですか」

ボクは思わず聞き返した。

元園長はニッコリ笑って
「そう。ただ遊ぶだけ。そばで遊ぶだけ。
そうやって同じ時間を共有することで
子供の心はお兄さんに寄っていくよ」

「遊ぶことならできそうな気がします」

「うん。その調子。頼んだよ」




Vol.389
今までボクは難しく考えすぎていたのかもしれない。

知識を学んで、技術をつけて
そうやって子供を支援してくことが
児童養護の仕事と思っていた。

いや、勘違いしていた。

そうではなく、
一緒に遊ぶこと

どもまでも子供の心に
寄り添うことが
児童養護の志事なんだと
根本を学んだ。




Vol.390
“一緒に遊ぶ“
これは今でもボクの指針になっている。

「ありがとうございます。これからも全力でやっていきます」
をお礼を伝えると

「期待しているよ。張り切りすぎないでね」
と優しく包み込んでくれた。

少しお酒が入って
ピンクになった頬と笑顔が
ボクを優しい気持ちにしてくれた。

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