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第五十八話【年末】(Vol.571-580)

Vol.571
大晦日。
一年の締めくくり。

師走ってやっぱり慌ただしい、
掃除に洗濯、
食堂さんはおせちの仕込みに
てんてこ舞いだ。

福祉会あげての行事になるため
その量は半端ない。

3日間の調理をこなしていく。

そう。保存の効くものを
たくさん準備してくださるのだ。




Vol.572
三日間食堂さんはお休みをされる。

その間の食事はどうなるのか。
1人3個のカップ麺と、おせち。
あと、保存がきく食材が並べられる。

職員が冷蔵庫からテーブルに出しながら
児童や職員がチョイスしていくシステム。

“あるものをいただく“

ご飯を炊くのもこの時は職員だ。




Vol.573
大晦日の夕食は決まって
“年越しそば“
しかも大きな海老天がつく。

「めっちゃ立派なエビじゃないですか!」
思わずボクは声をあげた。

「出来合いやけどな」
アラタ兄が教えてくれた。

「出来合いでも、ありがたいですよ。一本あるかないかで、テンションが変わりますから!」

「そやな」




Vol.574
何かメインの料理にチョコっと添えるだけで
豪華に変わる時がある。

最強のオプションはなんと言っても
“卵“だろう。

カレー、ハンバーグ、牛丼。
何かにチョコっとトッピングする最強のオプションだ。

もちろん蕎麦にも合うが、
キングである卵でも、海老天には及ばない。




Vol.575
年越しそばをいただきながら
一年無事に過ごせたことを
噛み締めた。

4月から勤めてはや8ヶ月
なんとなく流れはわかってきたが

まだまだ子供の支援までには
至っていない。

生活を共に過ごすことで
精一杯の一年だった。

この後も、年越しラーメンが
待っている。

気が抜けない。




Vol.576
ご馳走様をした後
ボクは食堂さんの食器洗いを手伝うことにした

「おばちゃん手伝います」

「ありがとう。お兄さん助かるわ」

ボクはおばちゃんと話をするのが好きだ。
なんとなく落ち着く。
それだけだ。

子供達もその気持ちは同じで、
“皿洗い“という口実をつけて
おばちゃんと話をする




Vol.577
大晦日のおばちゃんは忙しい。
おせちや雑煮の仕込みで大変だ。

「お兄さん。今年も終わるね。どうやった」

「少しずつ、子供たちのことがわかってきたけど、まだまだですね。迷うことばかりです」

「そやんねぇ〜。でも焦らんことやで」

暖かく包んでくれるおばちゃんの言葉が沁みる。




Vol.578
「おばちゃんなぁ〜 この仕事して長いけど、みんな最初から飛ばしすぎるねん。その後、疲れてしまう姿をよーさん見てきたわ。だから言えることは、焦らんことやね」

子供達の食と健康を支えてきたおばちゃんの言葉には説得力がある。

新採用のボクの焦りをずばっと見抜いていたのだ。



Vol.579
「焦らずに」
うん。大事な指針だなってぼくは受け止めた

皿洗いを終えて、お茶をもらいながら
おばちゃんと話す

「年末年始は大変よ。お兄さん」とおばちゃんが
心配してくれる。

そう。生活時間がダラァ〜っとなるかららしい
また、食事の準備を職員でするので普段よりも
大変なのだ。




Vol.580
お手伝いを終えてボクは
居室に戻った。

子供達はテレビゲームをしながら
時間をまったりと過ごしていた。

自宅へ帰省した子もいるため
普段より少ないメンバーで過ごしている。

夜の20時を回った時、
「そろそろ行こか」
ボクはヒロシに声をかけた。

「オ〜」の声が返ってきた

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