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文学フリマ大阪、新刊出ます!――『離陸』紹介

こんにちは😃
気がついたら文フリ大阪まであと三週間くらいですね。早い!
セッセコ準備を進めております。久しぶりの旅行楽しみだな〜。と盛り上がっていましたが、よくよく考えたら、一人で遠征というか旅行するの、もしかして人生初なのでは……という衝撃の事実に気付いてしまった。人間として経験値が足りない。

ということで。

文学フリマ大阪11、新刊が出ます〜!🥳🥳🥳いえい。
当初は既刊のみの持ち込み予定だったのですが、せっかくの遠征だし、やっぱり何か新刊は欲しいヨネ……と予定を調整しました。

表紙はこちら!

新刊表紙

新刊のタイトルは『離陸』
以前参加していた同人サークルの合同誌に書いたものを大幅改稿したものになります。ジャンルはBLです。ですよね?

ページ数62ページ。そんなに厚くないので、気軽に読んでいただける一冊になっているかなあと思います。

本文冒頭をサンプルとしてあげておきますので、ぜひお読みいただければ。
気になったら当日、ぜひスペース『C-36: JUNK SHOP』までお越しください!


 ごめんね
 夜、家で一人でテレビを見ていると、から唐突にメッセージが届いた。なんのことだろうと思って、少し考えるも答えが出ない。別に、俺と景は何も喧嘩みたいなことをしたりはしていないし、何かあいつに失礼なことを言われた記憶もない。あいつに怒っていることも特に思いあたらない。だから俺は、
 何が?
 そう送ろうとiPhoneの画面の上で指を振る。そうしていると、急に妙な気持ち、不安な気持ちになった。指が送信を躊躇する。突然の景の言葉が、何か重大なメッセージに思えた。
 ごめんね
 緑色の吹き出しマークの中にそう表示された俺のiPhone4S。数ヶ月前に携帯電話から機種変更したばかりのそれは、随分メールの表示方法が変わっていた。
 しばらくそれを、じっと見つめていた。
 最初、深刻なメッセージに思えたそれも、ポップな吹き出しのせいでそうは思えなくなった。
 だから、そんなのは気のせいに過ぎない、そう思い、送信マークをタップした。ボックスに入っていたメッセージが、まるで浮かび上がるように上に移動する。俺のメッセージは景に向かって放たれた、はずだった。
 その時景はどうしていたのだろう。首に縄をかけているところだったのだろうか? それともいくつもあったというカッターナイフのためらい傷を作っているところだったのだろうか? いくつか準備していたという自殺の手段の中から、どれにするかを悩んでいるところだったのだろうか? それとも、あの瞬間、俺が『何が?』と送ったあの瞬間、まさに景は登った椅子を勢いよく後ろに蹴り倒し、首が縄に食い込んだのだろうか? 景の首が締まって、肺が機能を果たせなくなり、脳に酸素が届かず意識がなくなって、だらりと腕が垂れ下がって、慣性の法則にしたがってその体が少しだけ揺れている。そのどの段階で、俺のあのメッセージは景に届いたのだろう?
 メールを送ったそのアプリには、まだ既読通知機能なんてものはついていなかったし、そもそも景が使っていたのはガラケーだったから、景があのメッセージを読んだのかはわからない。だけどきっと、景はあのメッセージを読んでいない。景は『ごめんね』と俺に送信し、携帯電話をそのままに命を絶ったのだ。そのとき景には、携帯電話を閉じる必要もなかったのだ。だってもう死んでしまうのだから。きっと景はそう考えたんだ。
 俺は、あの時送信を躊躇した自分の指が許せない。それだけでなく、あのときすぐに電話をかけてやれなかった自分を許せない。漠然とした、しかし確実な不安に襲われながら、ただ少し遅れて一言返信しただけの自分が許せない。俺はあの時の自分の対応が、正しかったものだとどうしても思えなかった。
 景は、クラスで腫れ物扱いを受けていた。同性の同級生に告白したことが広まって、よからぬ噂がまことしやかに囁かれるようになったのだ。いじめではないとみんなきっと口を揃えるだろう。景は別に、暴力を振われたわけでも、暴言を吐かれたわけでも、直接的ないやがらせをされたわけでもない。現に景の自殺後の学校の調査でも、『いじめの事実は確認できなかった』という報告がなされている。クソッたれ。本当に、クソッたれだ。
 景の周りには、一枚の透明な膜があった。コンドームみたいな、0.1mmもない薄い薄い膜。彼らが作ったのはそれだけ、それだけだった。
 そんなことで人は死なない。
 みんな、そう思っていた。
(つづく)


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