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短編小説『curiosity killed the cat』

見てはいけない、決して見てはいけない、その好奇心があなたを殺す

言ってはいけない、決して言ってはいけない、その好奇心があなたを殺す

聞いてはいけない、決して聞いてはいけない、その好奇心があなたを殺す

「なんでこんなことに......」智広は降りしきる雨の中、薄れゆく意識の中で考えていた。

全身をナイフで刺され、もう自分でも死ぬことは覚悟していた。 ただ分からないのは何故こんなことになったのか?あの時、一瞬抱いた好奇心が悪かったのか?

「冷たい!」智広はだんだん身体の感覚がなくなっていくのを感じていた。

「これが死ぬっていうことなのか?さっきまであんなに痛かっのに、もう痛くもなんともない。ただ冷たくて、体の力が抜けていく」

自分の最期を想像したことは何回かあったが、こんな風に死ぬなんて想像したことは一度だってなかった。

二人の男たちは智広の手と足をそれぞれ持つと、ゴミの山のなかに放り投げた。その上からゴミを適当に覆いかぶせる。

「世話の焼けるやつだ。余計なことに首を突っ込むからこういうことになる。 普通に生きていれば、これから先何十年も生きられたのにな、同情するよ。 だけど悪く思わないでくれ、俺達もこれが仕事でな、お前に生きていてもらっては困るんだよ。俺たちの雇い主も、俺たちもな」

言う必要のない台詞を男はせめてもの供養とでもいうのだろうか、今は亡き骸と化したゴミの中に眠る 一人の男に向かってつぶやいた。

昨夜

雨の降りしきる夜のこと。智広は残業を終えて帰宅の途中だった。すると突然、女性の悲鳴が聞こえた。

声のする方に横殴りの激しい雨に傘をとられながら走って行ってみると、一人の女性が無理矢理車の中に連れ込まれているのが見えた。智広はとっさにスマホを取り出し、その車を写真に残した。 車はそのまま走り去った。

交番の中で智広は事の経緯を事細かに警官たちに説明した。しかし、智広の話だけでは警官たちは 一向に腰を上げる様子もない。

「今のところ君の証言だけなんでね、すぐにというわけにいかないんだが、とりあえずその証拠はこちらで預かっておくから。スマホはこちらで預かれるかな?」

「いやスマホは無理ですよ。この写真だけでいいでしょう?そちらにメールでお送りしますから」

「そういうわけにいかないんだよね。もちろんその写真も送ってもらうけど、現物もお預かりしないといけないんだよ」

「 けれど、スマホがないと僕は困りますよ 」

「わかった、ちょっと待ってくれるかな?上司と話をしてみるから、少しの間ちょっと借りれるかな?」

「何でですか?」

「 いや、そのスマホの中に入ってる写真が捏造されたものかどうか、ということをちょっと確認だけさせて欲しいん
だよ。画像も鮮明じゃあないし。そうすればもういいから」

「捏造なんかしてませんよ!」

「いいから、いいから。悪いようにはしないから。君もスマホがすぐに手元に戻ってくるんだよ。そっちの方がいいでしょう?」

「わかりました」

しばらくして智広のもとにスマホが戻ってきた。そして智広が写真を確認すると写真は削除されていた。

「写真が消えているんですけれど......」警官につめよる。

「もう、あの写真は君には必要ないでしょう?」冷たい口調でそう言うと、帰るようにうながされた。

多少の不信感を覚えながらも、智広はとりあえず警察には届け出たし、もうこれ以上自分が関わることはないだろう。と、まだ激しく降り続ける雨のなか帰宅した。

翌日、会社の仕事が終わる少し前、智広の携帯に一本の電話が入った。警察からだった。「昨日の件でご足労願えないでしょうか?」ということだったので「 分かりました」と答え、警察署に着くと二人の刑事が待っていた。

物腰の柔らかい刑事たちで、緊張していた智広は少しほっとして昨夜のことを詳しく話した。

「それであなたは連れ去られた彼女の顔とか、服装とか、何か覚えていますか?」

「いいえ、ものすごい土砂降りだったもので...、髪は長かったような気がします。それと白っぽいカーディガンと言うか、セーターと言うか、何かそういうものを着ていたと想います」

「それと、その女性が、止めて! と、言った後に、人の名前を言ったような気がするんですけれど......」

「その名前は聞こえましたか?何という名前でした?」

「女性はその名前を叫んでいたんですけれど、覚えていないんですよ。本当に覚えていないんです」長々と質問を受け、昨夜とほとんど同じことを話した。

「わかりました。今日はもうこれで結構です」と刑事に言われ、智広は帰ろうとしたが、刑事に向き直ると

「すいません、聞いてもいいですか?」と、気になっていたことを刑事たちに 聞いた。

「 それで、誘拐と言うか、そういう類いの事件が起こったんですかね?私が交番ではなく警察署に呼ばれたということは、事件が起こったんですよね?誰が誘拐されたんです?聞いてもいいですか?」

「いえ、それはちょっと教えられません。申し訳ないですけれども」

「そうですか。けれども僕が見たんですよね。で、僕は当事者と言うか、関わってしまったわけですよね。そういう僕でもその人の名前とかを教えていただけないんですか?僕もすごく心配しているんですよその女性のことは......」

智広は続ける。

「それでもし、テレビのニュースなどでその方の名前が出るようなことがあったら、と思うと。教えていただけないんですか?」

「えーっ、教えられません」刑事は吐き捨てるように言った。

ここで言った一言が自分の命を縮めてしまうことになるとは、智広は予想だにしていなかった。単純な好奇心で聞いてしまった彼女の名前。どうしても知りたかった智広は、さっきの話に出た男の名前の件をむしかえしたのだ。

「たった今、その男の名前を思い出しました」

「本当に?それで彼女は何と言ったんです?」

「これって不公平じゃないですかね?僕の方からばかり情報提供して、僕が知りたい情報をそちらから提供していただけない。いくら僕が 一般市民で警察に協力することが当たり前だとしても、名前ぐらい教えて頂いてもいいんじゃないですか?そうすれば僕も思い出した名前をお教えしますよ」

刑事たちは顔を見合わせ「ちょっと待っていただけますか?」と、その場を去った。

十分ほどして戻ってきた刑事たちは「やはり申し訳ないんですが、名前はちょっと教えられません」と、頑なに教えられないと言う。

「情報が欲しくないんですか?」

「それは情報は欲しいですよ。けれども 規定なんでね。上司からの許可がおりませんでした。またお呼びすることがあると思いますけれども、その時はご協力をお願いいたします」

智広は食い下がる。

「だったら、今名前を聞く方が簡単じゃあないんですか?その方が犯人逮捕につながるでしょう。何で教えていただけないんですか?」

どうでもいいことに意固地になるのは智広の昔からの癖で、今までもこれで友人達や知り合いたちとトラブったことが何度もある。

刑事たちはいい加減辟易して、

「もう、本当にいいですから。帰られてください。私たちも暇じゃないんでね」と無理矢理ドアの方に促された。

十分前 刑事たちの会話

一人の刑事がスマホで誰かと話している。

「例のあの青年なんですけれども、話を聞いたところ、最初は名前は聞いてないということだったんですが、最後の最後に名前を聞いたと言うんですよ」

「それで何という名前だったんだ?」

「いや、それがですね。刑事の私にですね、取引を持ちかけたんですよ。連れ去られた女性の名前を教えてくれれば、思い出した名前を教えると......」

「本当に彼はその名前を知ってるのか?」

「いいえ、私の勘では知らないような気がします」

「分かった。もうしょうがないな。今回の件は本当にやばいんだよ、俺たちもな」

「わかっています。こんなことが世間に知れたら大変なことになりますからね。なにしろ、警察内部のことですからね」

智広はやりきれない思いでいた。何で刑事たちは教えてくれないんだ。「ああ腹が立つ!」一人でぶつぶつ言いながら 警察署から 帰って行った。

その後を二人の男たちが智広を尾行していた。

智広は腹が減っていることに気がついて 近くの ファストフード店に入った 。ハンバーガーセットを頼みコーヒーを喉に流し込む。「気になってしょうがないよ!」独り言のようにつぶやく。その様子を見ている二人の男。

食事を終えて土砂降りの中帰る途中、智広は突然後ろから二人の男に襲われ連れ去られる。車は人気の無い所に停まった。

猿ぐつわをされた智広は手足を縛られていた 。男達は辺りを見回すと智広にこう言った。

「お前は俺達を覚えているか?」

智広は猿ぐつわの下から「あっ!」っと声を上げた。

それは昨夜女性を連れ去った男たちだった。激しく降る雨の中でおぼろげだったその顔を、今、智広はハッキリと思い出した。

「もう一度聞く。お前は名前を聞いたのか?」

智広は首を横に振る。

「うん、うん、うんっ!」声にならない声を上げる。

男たちは「そうか、聞いていないんだな! 分かった」と言うと何やら二人で話し始めた。

智広は心の中で「助けてくれるんだろうか? 」と自問自答したが、男はナイフを取り出すと

「お前の下手な芝居がお前を殺すんだぞ!」と、怒鳴った。

「名前を聞いた!と刑事に言っただろう?そんなことさえ言わなければ、これから先、何十年も生きることができたのにな、かわいそうに。まったく人の好奇心ってものは...袋の中に入りたがる猫みたいなもんだな。どうやっても自分では止められない。ドラマだったら最後に言い残すことはあるか?などと聞くんだろうが、別に俺たちはそういう趣味はない。まあかわいそうにとは少しは思うが自業自得だな。 せめて痛くないように殺してやるよ!」

男はそう言うと、智広の腹にナイフを突き立てた。

もう一人の男が言う。

「待ってくれ!俺も殺しはひさしぶりだ、俺にも楽しませてくれよ?」

「たった今、痛くないように殺してやる。と言ったばかりだけれど、どうでもいいか、どっちみちこいつ死んじゃうんだから、いたぶって殺す方が楽しいか。

そうだな、俺も久しぶりだから少し楽しむか」智広が首を振る。

ナイフがひと差しひと差し、腹、足、ふくらはぎ、腕、 胸、 背中、ありとあらゆるところに突き刺さった。

あまりの痛さに智広は声をあげるが、声にならない。雨は激しく智広のからだに降りそそぐ。智広の命が降りしきる雨に流されていく。

一滴一滴、一秒一秒、智広の命は下水口の中へと消えて行く。

「そろそろここで終わりにするか」男は智広の心臓を突き刺した。

「最後は首だっ!」男が言うと、もう片方の男が「首はやめとけ。血の量がすごいぞ。服に浴びることになる!」と止める。

「そうだな。汚いのは俺も嫌いだからもう終わりにするか」そう言うと、

二人の男たちは智広の手と足をそれぞれ持つと、ゴミの山の中に放り投げた。その上からゴミを適当に覆いかぶせる。

男たちは去って行った。

智広はまだ生きていた。と言ってもあと数秒の命だろう。人間は死ぬ時にそれまでの人生が走馬灯のように駆け巡るという。智広にもわずか数秒の間にそれが起こった。そして最後に智広が思ったのは、「 あの時、単なる好奇心で聞くべきじゃあなかった、 嘘をついてまで......」

はいっ!あなたはなぜ智広が殺されなければいけなかったのか?連れ去られた女性はいったい誰で、二人組の男、警官、刑事、電話の向こう側の男はいったい何者だったのか、 いまだに分からない?

そうですか......。

すっきりしない?そうですか......。

人間って本当に学習しないものですね。


この物語のタイトルは何でしたか?


思い出してください!


もうお分かりですね?


それではよい一日を!



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