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だまされたと思ってハラスメント

家族で回転寿司にいったときに、となりのテーブルでこんな会話がされていた。

A「今日はお祝いだし、バンバン好きなもの食べてよ!うわ!すごいウニじゃん!ほらどうぞ!」
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B「あっ…あの、すみません…ウニだけ苦手で…お気持ちだけ…」
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A
「えー!!こんなうまいもん、キライなの!?それはさ、あれだよ。今までほんとにうまいウニを食ってきてないんだよ!ほら!だまされたと思って、食べてみなよ!!」
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B「あっ…あの………ありがとうございます…いただきます…」

このグループは6人組で、結婚式の帰りらしいオジサン4人と若い女性2名だった。会社の同僚だと思われる。

Aはいちばん恰幅もよく役職も上そうな50代の男性で、Bは30歳くらいの控え目な女性だった。部下なのだろう。

会話のとおり、男性上司が女性の部下にたいして、苦手だと主張しているウニを食すことを強要しているのだ。

私は以前から、このタイプの会話展開が好きじゃない。

苦手だと自己申告している人に無理強いすることもナンセンスだが、それよりなにより、食べさせる理由づけがいただけない。

「いままで本当に美味しい〇〇を食べたことないから」は主にウニやイクラといった海産物、フォアグラやキャビアの珍味など、高級ラインの食べ物によく使用される文句だ。

これは意訳すると「実家、貧しかったでしょ」と聞いているのと大差なく、知りもしない他人の食生活を貶める、大変いやしい邪推ではなかろうか。

しかも同時に「俺はうまいもん、めっちゃ知ってけどね!」というマウントもズガーンとかましており、相手を見下しつつ、美味しいのに知らないんだ~とコケにさえしている。

せいぜい回転すしのウニ程度で「本当にうまいもの論」を説こうとしている姿は、滑稽ですらあった。

そして極めつけは「だまされたと思って」という定番フレーズである。

私はBさんがウニを食べたかどうかまでは見届けなかった。
しかし心の中では、彼女の分も全力でツッコミを入れていたのだ。

「いや、だますなって!!」と。

1億総ハラスメント時代

セクハラ、モラハラ、パワハラ、アルハラ。
現代はありとあらゆる関係性から生まれるアクションに、何かとハラスメント名詞がつきやすい。

毎月のように新しい造語が出てくるので、そろそろ誰か一覧にしておいてくれないと収拾がつかない気がする。

これはハラスメント的な行為事態が新しく生まれているわけではなく、昔からあった問題行動にしかるべき名前がついていき、「そうゆうもんだから」で済まされていた慣習にNOが突き付けられる、時代の変化の産物だ。

私が子どもの頃のアニメは、オジサン上司が若いOLのおしりを通りざまにぺろっとなでて、「いい尻してんね、きみ~」なんてゲスなセリフを吐くシーンも、「もう、部長ったら!」のひとことで済まされていた。

今だったら会社によっては解雇や処罰の対象になり、少なくともSNSに流せば大炎上する。
そうゆう時代になったのだ。
誰もが何らかのハラスメントの受け手であり、与える側にもなりやすい。

しかしながら、これほど多種多少なハラスメントが叫ばれる中、「だまされたと思ってハラスメント」がいまだに幅をきかせている。
今こそ伝家の宝刀、「遺憾の意」を出すしかない。

平成も終わるのに、いまだにのさばっているこのハラスメントは、「自分は好ましく思っているが相手が敬遠する対象物」に対して発動される。

相手がそれを嫌いな度合い、理由、エピソードをまるっとシカトし、「こんなに好きな僕がいるから大丈夫!」と謎理論でグイグイおしてくる。

しかも、最終的に相手に迫る二択が残忍で、「説得の結果、いいと思ったか思わないか」を聞くのではなく、「なにも考えずに、いったんだまされてよ、いいでしょ」とむちゃくちゃな同意をとりにくるのだ。

まず、だますな。

だまされて嬉しい人間などいない。
オレオレ詐欺で被害者とその家族がどんなに傷つくか、知らないのなら涙なしに観れないドキュメンタリー作品をすすめたい。

他人をだます、はしてはいけない基本動作であって、詐欺罪や偽証罪だってあるのに、面と向かって「だまされたと思って〇〇をしてみて」などよく言えたものだ、ビックリするわー。

しかしこの言説は驚くほど多様な場面で使用されている。

「ダマハラ」はこんなに恐ろしい

「ジェットコースター苦手なの?はじめは怖いけど、一回乗ったらやみつきだよ~私もそうだった!乗ってみようよ、だまされたと思って!」

うん、だますな。

「目玉焼き何派?あ、醤油ね、メジャーだね。でも通はケチャップだよ、ケチャ目玉を食べずに朝食は語れないと思うよ~ほら、だまされたと思って、かけてみて」

やかましい、だますな。

「え、嘘?仮想通貨やってないの??いまどきヤバくない?大企業も給与の一部を仮想通貨で、とかあるんだよ?知らないの??はじめたほうがいいよ~ほんと悪いこと言わないから~ね、だまされたと思って」

だますのは悪いことだぞ、知らないんか。だますな。

このように、自分の主張を疑わない人間は簡単にダマハラを仕掛けてくるので注意が必要だ。

そもそもこのハラスメントは相手が不利益をこうむってもいいので自分のいいと思うものを体感させたい、同調させたい、という輩の常とう手段なので、だまされてみたところで、こちらに利益はやってこないという構造も問題だ。

例えば、だまされたと思って苦手なジェットコースターに乗ってみる。
やっぱりすごく怖くて後悔する。
相手に不満を伝える。

するとだいだい、「あ、やっぱダメだった?こんなに楽しいのにな~変わった奴、ナハハ」などと言われる。

な~~~にィ~~~??となる。

よくても「マジか~ごめんごめん」程度で終わりにされてしまうのだ。

ダマハラする側は「君の言う通りだった!素晴らしいアイデアをありがとう!」と言われることしか想定していないので、それ以外の感想への反応がにぶい。

そしてだましているのでバツが悪く、同調しなかった相手の感性に問題がある、という恐ろしい結論まで持ってくることがある。

ちなみにこの仕組みが分かっているので、はじめから断固「だまされてみない」というスタンスを誇示すると、「ノリが悪くて頑固な分からず屋」などの評価を下されることも多く、だまされるも地獄、だまされないも地獄のアウシュビッツ状態に陥る。

さらに冒頭の「ウニ事件」のように、グループの中で発生してしまったダマハラには強烈な集団心理が働き、その人がだまされることを、全員が期待してしまう。

「だます」とは本来、テクニカルな嘘でもって作る出す状態であるのに、相手が自発的に「だまされたフリ」を演じることを望んでしまうハラスメントなのだ。

誰も得をしないし、だまされてやっても、ないがしろにされるだけのこのハラスメントが、新年号を前に絶滅することを祈っている。

これを読んだあなたも、くれぐれも注意し、日々の生活を送ってみてほしい。

私はダマハラに関して、みなさんより詳しいので、特別に教えることにする。
防犯祈願がなにより大事だから、私に投げ銭をすると被害にあわないのだ。
ほらほら、だまされたと思って。ね?

記:瀧波 和賀

Twitterもくだらないことをつぶやきます^^

#ハラスメント #嘘 #コラム #ごめんね





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