市川沙央『ハンチバック』 読書感想文 B
B-①
でまあ、世間で話題の「『ハンチバック』な内容」についてですが──、
B-②
しっかり話せてると思います。実体的な事実も、当事者の内面も、訴求力も、過不足なく揃ってる。
B-③
ただ、今ってこういう「被害者側からの訴え」「弱者からの抗議」が多い時代なので、その中に埋もれるだろうなとも思います。
B-④
そういう社会状況なので、べつに市川の力量の問題ではないんだけど、単純に「惜しいなあ」と思います。
今って「被害のインフレ」ですからね。こんなにしっかりした訴えも、たぶん一時的な消費で終わるんだろうと。
B-⑤
そういう状況下でこういう話をしていくとしたら、やっぱり「もうマスは期待しない」がいいと思います。
おれの個人的な見方ですが。
B-⑥
そもそも出版は「マス」ありきで行われてる事業──というより「マス」なる概念を生み、その概念を誰もが信じる状況を作ったのが出版なので、これって矛盾してるんですけどね。
B-⑦
市川の訴えがしっかりしたものになっているのは、やっぱりその軽さですよね。
吹っ切った独善、いじらしいジョークや皮肉、ともかく話を進めていこうとする謙虚さ、それらがとても現実的な軽さを持ってるとこです。
日常とはいつもたいてい軽るーく流れていくものです。
B-⑧
なので、「ああ、この人は現実を分かった上でこの話をしてるんだな」という感じ。
B-⑨
インタビューや報道・紹介等で「障害者の問題提起」みたいに扱われてましたが(まあ実際、テーマも内容もそうなんですが)、それで「重そう」「固そう」みたいには思わないほうがいいです。
本質的に軽い小説です。
するする過ぎていく日常が軽いように軽い。
B-⑩
「障害者にとって紙の本は差別だ」と話されて、「…そうだったんだ。考えなきゃな」と模範解答する必要はないです。
そこで思わず知らず「考えなきゃな」と思わせてしまう現実感をしっかり作品全体が持っている、そこが大事です。
B-⑪
「ともすると日常のようにするする流してしまいそうになるけど、これけっこう大事なこと話してない?」という、それくらいの引っかかり方が大事になってくる、そういう小説ですね。
B-⑫
そうしっかり感じとってくれる人が、1000人に3人くらいはいると思います(経験的にいうと、だいたいそんなもんです)。
B-⑬
なのでともかく「読書弱者」に対してカズノはこれからどうしてくかなあ、と考え始めてるとこです。
言われるまで気づかなかったですね、これは。
ごめんなさい。
ま、その件だけじゃなく。
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