3.2 四和音の種類とコード表記法(後半)
この記事は3.2節の前半からの続きです。
3.2.5 マイナーメジャーセブンス
さあ、四和音の後半戦、いきなりヤヤコシイ名前が出てきました。マイナーで、しかもメジャー?
これはマイナートライアドに、ルートから長7度 (major 7th)上の音を付加してできる四和音です。
読み方としては「Cマイナーメジャーセブンス」のようになりますが、「Cマイナー(のトライアドに)メジャーセブンス(を足したもの)」のように、()内を補って解釈すると分かりやすいと思います。最初の「マイナー」はトライアドの部分に、後半の「メジャー」はセブンスに掛かっているわけですね。
ルートの短3度上にオーグメントのトライアドを乗せた形と見ることもできます。
表記法としては、「ルート音名の後にmmaj7を書く」というのが一応正式ですが、mが連なって読みにくいので(しかもそれぞれがマイナー・メジャーという言わば反対の意味を持っている)、個人的には、mmaj7の代わりに「m△7」「-△7」などと表記することをお勧めします。「mM7」と書いてもよいですが、この場合は小文字と大文字を分かりやすく丁寧に書き分けましょう。
読み方は、先ほど触れたように「Cマイナーメジャーセブンス」のようになります。長いですが、これ以上省略すると意味が変わってしまうので、省略は不可です。日本の楽典では、このコードの特別な名称はありません(短三長七の和音、と呼ぶ人もいるようです)。
ハーモニックマイナースケールまたはメロディックマイナースケールにおいて、主音(トニック)をルートとした四和音を作るとこのコードになります。基本的な性質はマイナートライアドと同じですが、第3音と第7音が作り出す増5度音程が独特の緊張感を醸し出し、けっこうキビシイ感じの響きになります。
例によって、他の例もいくつか示しておきます。
3.2.6 ディミニッシュセブンス
減三和音(ディミニッシュのトライアド)に、ルートから減7度 (diminished 7th) 上の音を付加したものです。第7音の名称がそのまま四和音の名称 (diminished 7th chord) となっています。厳密に言うと英語ではdiminishedと過去分詞形になっていますが、日本ではそこまでこだわらず、一般にディミニッシュセブンスと呼ばれています。日本の楽典では減七の和音と呼ばれます。
ルートから単純に短3度を3回積み上げてできた和音と考えることもできます。
表記法としては、「ルート音の後にdim7と書く」のが正式ですが、トライアドのところですでに触れたように、単にdimとのみ書いてdim7を意味する場合もあります。小さい○と7を書いても同じ意味になります。いずれにしても、このコードにおいては7がデフォルトの短7度ではなく、減7度を意味していることに注意してください。
ところで、音程のところで学んだように、減7度は長6度の異名同音程となります。実際の譜面では、ディミニッシュセブンスの第7音が、減7度ではなく長6度として表記されることはむしろ普通です(下記のCdim7の例では、左側の書き方のほうが見やすいですよね)。
ハーモニックマイナースケールの第7音をルートとして四和音を作るとこの和音になります。性質としてはdiminished triadと大差ありません。
この和音のもう一つの性質として、ルートを無視してコードの構成音だけに着目すると、「ディミニッシュセブンスは3通りしかない」ということが言えます。たとえばCdim7、E♭dim7、G♭dim7、Adim7の構成音はどれも同じ(C、E♭、G♭、A)で、ルートが違うだけです。これらをまとめて1種類と見做すと、下に示すように、全部で3通りしかない、という見方ができるわけです。
3.2.7 マイナーセブンスフラットフィフス/ハーフディミニッシュ
Diminished triadに、ルートから短7度 (minor 7th) 上の音を付加したものです。ルートの短3度上にマイナートライアドを乗せたものと見ることもできます。
この四和音には二つの名称があり、少しヤヤコシイですが、どちらも理解しておく必要があります。
名前の一つめは「minor 7th flat 5th chord」というもので、「マイナーセブンスの第5音を半音下げたもの」という意味でこの名称になっています。
もう一つの名前は「half diminished 7th chord」というもので、「半分だけdiminishされたコード」ということになります。この「半分だけdiminishされた」というのは、第5音は減音程に引き下げられているが、第7音は減音程になっていない(短音程のまま保たれている)という意味です。
日本の楽典では導七の和音、または減五短七の和音と呼ばれます。
表記法としては、マイナーセブンスフラットフィフスという意味を表現して、「ルート音名の後にm7(-5)を書く」のが普通です。m7(♭5)と書いても全く同じ意味です。また、ハーフディミニッシュという捉え方から、ディミニッシュを表す小さい○に斜線を引いた∅のような記号を書く場合もあります。
この∅が読めない人が(私の経験した範囲では)けっこう多いのですが、シンプルで便利な表記なので、もう少し普及してほしいものです。iReal Proでも∅が採用されています。読み方としても「Cハーフディミニッシュ」のほうがはるかに楽です。まあ、「Cマイナーセブンスフラットフィフス」といちいち言いたければ、止めはしませんが……。
というわけで、私としては一応、「∅」と書いて「ハーフディミニッシュ」と読むことを推奨します。ただし、自分で譜面を書く際に、その読み手が∅を読めないおそれがある場合は、「m7(♭5)」のように書くほうが親切であると言えます。
さて、この和音の性質ですが、ナチュラルマイナースケールまたはハーモニックマイナースケールの第2音をルートとして四和音を作るとこの和音になります。
この和音が短調の曲でサブドミナントの機能を持つため、短調の曲で出現頻度が高いです。
ただし、メジャースケールの第7音(導音)をルートとしても当然ながら同じ四和音ができます(導七の和音、という名称はこれに由来しています)ので、長調でも現れることが珍しいわけではありません。
最後に、いくつか例を示します。
3.2.8 メジャーセブンスシャープフィフス
Augmented triadに、ルートの長7度 (major 7th) 上の音を付加したものです。メジャーセブンスコードの第5音を半音上げた和音と言う意味で、major 7th sharp 5th chordという名称になっています。ルートの長3度上にメジャートライアドを乗せたものと見ることもできます。日本の楽典では特に名称がありません。
表記法としては、C△7(♯5)のように、まずメジャーセブンスコードを書き、その後に(+5)または(♯5)を書き加えるのが一般的です。Caug△7と書いても通じます。
読み方ですが、特に短縮形はないので、長ったらしいですが「Cメジャーセブンスシャープフィフス」と言うのが良いでしょう。また、「Cオーグメントメジャーセブンス」と言っても通じるでしょう。
この和音は、ハーモニックマイナースケールまたはメロディックマイナースケールの第3音をルートとして四和音を作るとできます。四和音のなかで一番オシャレな響きかもしれませんね。
これで7種類の四和音を全て学びました。お疲れ様でした!
3.2.9 ドミナントセブンスの第5音を変化させたコード
えっ、まだあるの? とお思いになった皆さま、大変すみません。あと2個ありました。実は、ドミナントセブンスにおいては、第5音を半音上げたり下げたりすることが許されています。特にジャズ系の音楽ではこれがよく出てきます。これらのコードについても見ていきましょう。
まず、なぜドミナントセブンスでは第5音の変化が許されているか、を考えてみましょう。復習になりますが、ドミナントセブンスというコードは、その完全5度下に解決したがる(つまり、ドミナントモーションしたがる)強い性質を持っていましたね。
上の再掲譜例のとおり、この性質を持つ理由としては:
①ルートをキーから見た属音(ドミナント)と見做したときに、完全5度下の主音(トニック)に解決しようとする力を持つ
②このとき、第3音がキーから見た導音となるので、半音上のトニックに解決しようとする力を持つ
③第3音と第7音がなしている減5度(三全音、トライトーン)が不安定なため、解決しようとする力を持つ
……という3つがあるのでした。もう一度この3つの理由をよーく眺めてみてください。何か気付くことはありませんか?
そう、この3つの理由のどこにも、ドミナントセブンスの第5音(G7で言えばD音)が絡んでいませんね。つまり、第5音を省略しても、ドミナントセブンスの機能は全く失われないことになります(実際の演奏でも第5音が省略されることはよくあります)。
省略してもいいくらいだったら、省略する代わりに、半音ずらしてみたらどうかな?という発想で生まれたのがこれらのコードなのです。実際、第5音を半音ずらしてみても、そのコードのドミナントセブンスとしての機能はやはり変わりません。ただし、普通のドミナントセブンスよりもしゃれた響きになることは確かです。
では、それぞれを簡単に見ておきましょう。
3.2.9.1 ドミナントセブンスシャープフィフス
ドミナントセブンスの第5音を半音上げた四和音をドミナントセブンスシャープフィフスと呼びます。オーグメントセブンスなどと呼ぶ人もいると思います。表記方法は7(♯5)、7(+5)、aug7などです。
(性質)普通のドミナントセブンスよりも明るい響きを持ちます。ホールトーンスケール(全音音階)という特殊な音階と相性がよいです。
3.2.9.2 ドミナントセブンスフラットフィフス
ドミナントセブンスの第5音を半音下げた四和音をドミナントセブンスフラットフィフスと呼びます。表記方法は7(♭5)、7(-5)などです。
(性質)ルート~第5音、第3音~第7音のいずれもが減5度(トライトーン)をなすため、不安定感の非常に強いコードです。オルタードスケールや半音全音ディミニッシュスケール(日本でのいわゆるコンディミ)と相性のよいコードです。
次回予告
さて、これで4種類の三和音と、7種類+追加2種類の四和音を全て学びました。本当にお疲れ様でした! しかし、実はこれで終わりではありません。コードは一日にしてならず、ですね。
これまで学んだコードは全て、ルートから3度を順々に2回または3回積んでいくことによってできたコードでした。しかし、実際には、その他の方法でもコードは作れます。3度じゃないものを積んだら? 3度を4回、5回、6回と積んだら?
次回は実際にこういったコードを学んで行きます。ここから先はさらに話が複雑になっていきます。しかし、だからこそ、ひとつひとつ整理して理解していくことが大事です。焦らずに行きましょう!
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