読書感想文「商う狼: 江戸商人 杉本茂十郎」永井 紗耶子 (著)

 すっかり古びてがんじがらめとなった旧癖をあらためる「風雲児」でよいのか。
 茂十郎は理である。理屈である合理である。制度,仕組みを根元から,目的から捉え直す。そして,合目的に整えて見せる。鮮やかである。ゆえに痛快である。才気走る者とは,こうした存在であり,一時代を築く寵児そのものかもしれない。
 だが,茂十郎は次々とメンツを踏みつけ,悪様に扱う必要があっただろうか。三橋会所を立ち上げるまでの殊勝な態度を続けりゃ良かったじゃ無いか。自分の大きさに対して何も潰して回らなゃならない相手ばかりだったろうか。弥三郎だけ立ててりゃいいってもんじゃないだろう。
 整えてみせた江戸の物流と金融を腐らせたのは,葵の御紋のトップ人事の甘さだ。そして,そこでの忖度や欺瞞の数々が薩摩の台頭を許し,幕政は終わりを迎えることとなった。
 放っておくと,金で,いや,金の回り方で人は死ぬ。まさに,今がそうだ。だからこそ,エンジニアリングとして,金を回す存在が必要だ。風雲児でもなく寵児でもなく狼のような存在の。
 金融・経済の専門家に茂十郎の評を聞いて回りたい。


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