集落丸山2

妄想と構想のあいだ。

私たちのチームは全員が妄想家、妄想する性向と能力を持っていると思います。「ヘンタイ」に属す。

マルクスは資本論のなかで、「人間が立ちむかうのはいつも自分が解決できる課題だけである」と書いたらしく、確かに人は、自分の能力を超えている問題の問題設定はしないものです。マルクスの言は真実を突いていると思いますが、一方で私たちは、解決できるかどうか分からない課題にも、果敢に、軽率に、挑みかかってきたように思います。

結論を先に書くと、妄想と構想の間には何もありません。妄想と構想は同じものです。夢も同じ。
構想を構想たらしめるのは、いかに妄想できるかに掛かっています。だから、私たちのまちづくり構想は、まちづくり妄想です。

ただ、構想や妄想や夢と「計画」は違います。宴席で盛り上がった構想や、お風呂で閃いた妄想は、そのままでは消えてしまいます。永年抱いてきた夢も夢のままでは萎んでいきます。構想や妄想や夢は、計画に落とし込まないといけません。

10年ほど前のある日、私は自分の妄想を才本謙二に語りかけました。
当時、才本と私は、酒井宏一らとともに古民家再生に取り組み始めていたのですが(現在のNPO法人町なみ屋なみ研究所)、その日は、その第1号物件で、2年間かけて再生した町屋の、完成内覧会の日でした。近所の皆さんやメディア、不動産会社などが来られていたように思います。

才本は、中庭に置いた「ひちりん」に屈みこんで、ウチワでぱたぱたと炊きつけていました。土鍋で米でも炊こうとしていたのだったと思います。
私は才本の背後に立って、あのな才本さん、丸山に7軒の空き家があるやんか、あれ7部屋のホテルにしたらおもろいんちゃう、と自分の妄想を語りかけました。

才本の手が止まり、才本は、(5秒くらいだったか、)そのまま動きませんでした。静寂が辺りを支配して、それから座り込んだままの才本がゆっくりと上体だけ振り返り、そ れ は い い で す ね ー と言ったのでした。

それでは妄想を計画にと、集落で村づくりのワークショップが始まり、半年間の議論の末、集落ホテルの計画がまとまりました。宿泊営業は選択肢のひとつに過ぎなかったのですが、集落の皆さんの選択も、やはりそこに落ち着いたのでした。

下図は、計画した宿泊施設3棟のうちの1棟、「ほの穂」の計画図です。

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図面中央の主屋が宿泊棟(一棟貸し)。右側の土蔵と納屋は痛みが著しいうえに傾いていましたので、私は、壊して駐車場にしようと考えていたのですが、才本が妄想してレストランの絵を描いてしまいました。

改修計画は3棟。1棟あたりの改修費が1,200万円〜1,300万円で計3棟、レストラン棟が1,000万円、と概算工事費も見積もることができました。妄想は計画となったのです。

けれども資金調達の当てはありません。1棟ずつDIYでこつこつやれば、10年くらいで3棟できるのでは的な見通しを立てました。

その時です、こんな補助金の募集がかかってるよと言う者がありました(当時では珍しい大型の補助金でした)。募集期間は2週間程度しかなかったので普通は企画が間に合いませんが、私たちはもう改修計画を持っていました。改修費の半分くらい補助金が入れば、一気に事業化が叶いそうです。申請書を書き上げ、結果を待ち、結果は採択。事業が一気に動き始めました。

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妄想はさらに続きます。
改修工事も進みはじめた初夏のころ、私は、ホテル営業を担うマネージャー人材を探していました。ホテル経営の経験があるマネージャーが切り盛りして、集落の人たちがオペレーションを手伝う、そのように考えていました。ところが、その動きを察知した村人たちが妄想して、自分たちで運営すると言い出したのです。

それはとても立派な考え、村づくりとしてはベストな選択です。こちらも宿泊営業は素人ですが、やるしかありません。村人たちは、頻繁に集まっては設えを考えていきます。寝具、リネン、テーブル、椅子、座椅子、テレビを置くかどうか、歯ブラシ、石鹸…。最初はタオルを選ぶだけで3時間もかかりました。お客様へのサービス提供の方法、村人の役割分担を考えていきました。

次は運営体制。集落住民5世帯19名が、全員でNPO法人集落丸山を設立。このNPOと弊社(一般社団法人ノオト)が有限責任事業組合丸山プロジェクトを設立して、連携協力のもと、10年間の宿泊営業に取り組むことにしました。

才本が妄想し、計画したレストラン(崩れかけた土蔵と納屋)には、フレンチの凄腕のシェフが神戸からやってくることになりました。有馬温泉の老舗旅館経営者からの紹介でした。レストランになればいいねと妄想しているだけなのと、レストランを計画して実際に改修しているのとでは、状況が全く異なります。

里山フレンチ「ひわの蔵」

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こうして、平成21年10月1日、最初の妄想から約1年半で、オーベルジュ「集落丸山」を開業することができました。妄想の育成が半年、計画(集落のワークショップと改修計画)が半年、工事が半年です。

もし、私たちが集落ホテルの妄想を語るだけで、計画に落としていなかったら、補助金取得のチャンスを掴むことなく、一気に事業化することは叶わなかったでしょう。

集落の皆さんが、(おそらく半信半疑な心持ちであったと思うのですが、)夜な夜な集まっては宿泊営業のオペレーションを考える、ということがなかったら、集落運営のホテルという夢は実現しなかったでしょう。

才本が壊れかけた建物の改修計画を描かなかったら、里山フレンチのレストランは実現していなかったでしょう。

夢をプランに。

これが、本当に夢を実現したい妄想家の心構えになります。妄想は、それが実現するかどうか不明であっても、だからこそ、計画に落としておかねばなりません。

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