ダマラのおはなし
そこは深い深い谷の底だった。
ダマラはかれこれ50000年ほどそこにいた。
はるか上空から岩を伝って水が滴り、丸い谷底の中央には湖が浮かんでいた。
この湖の水量は日によって増減を繰り返し、それにはいくつかの周期があることにダマラは気づいていた。
数千年に一度くらいは、ダマラの寝床である洞窟は水で満たされた。
そんなときには井戸のようなこの谷地を登っていって、普段は行き着くことのできない上方に伸びている洞窟に辿り着くのである。
ダマラの寝床は落ち葉と鳥の羽とでできていた。
ダマラの住んでいる世界には、たくさんの植物と、石と、花があった。
初めの数十年、ダマラはそれらに夢中で、なんて不思議なんだろうと四六時中みんなと会話していた。
50000年経ってもやはり、ダマラはそれらに夢中だったし、彼らの神秘にはいつも叶わなかった。
ある時期になると湖城には土色の、パリパリと崩れやすい、2点の尖った楕円の、丁度ダマラの体より少し大きめの薄べったいものがたくさん降ってきた。
そのせいで上空に空いた丸い青が見えなくなることもよくあった。
しばらくするとそれは、湖や土に溶けて消えていったが、ダマラはいつも7、8枚、とって壁に掛けて置いていた。
それは、ダマラの布団にピッタリだったのである。
また、時折、白や黒や、グレーまじり、青や緑の混じった、たくさんの線状の束をつけた棒も落ちてきた。
これもたまにしか落ちてこなかったので、ダマラは洞窟に入るように石で切ったり削ったりして、必ず洞窟にしまっておいていた。
ダマラはそれを茶色い、薄べったい何かの上に乗せて、寝るのが心地よくて好きだった。
また、洞窟の岩が剥がれ落ちた後の、彼女の手のひらを2つ一杯に広げて丁度くらいの小さな空隙があった。
そこはダマラの宝箱で、湖の辺りの小石たちの中の一際透き通って輝きを持つ、小さくて硬い選りすぐりの粒を入れていた。
他の小石たちは彼らを持っていってしまうのを嫌がったが、ダマラはこの儚げで美しい小石を守らなくてはという使命感に燃えて、離れ離れにするのを少し悲しみながらしまっておいた。
代わりに、ダマラは毎晩毎晩、話しかけるのを忘れずにした。
選りすぐりの小石たちは本当に美しかった。
明るいうちは、ダマラは湖の辺りにいることが多かった。
そこにはたくさんの花たちが咲いていた。
彼女たちはダマラの最愛の話し相手だった。
中でも薄紫色の花びらを5枚持つすみれという花とダマラは仲が良かった。
すみれは頭がよく、ダマラの知らないことをたくさん教えてくれた。
すみれはダマラの湖には1人ぽっちでいたが、ほんとうは、上の世界ではたくさんの仲間がいたのだと言っていた。
動けない花びらの代わりに花が触れ合うのを助けてくれるムシの話や、真っ暗になると現れる無数の飛び交う光の話や、この湖よりももっともっと大きな揺れ動く水の話が、ダマラは大好きだった。
すみれの教えてくれる話のお返しに、ダマラは一生懸命考えて、お話を作って聞かせるのが常だった。
ワクワクするのも、退屈なのも、ダマラは全てを愛していた。
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