見出し画像

『 秋の空時計 』② #毎週ショートショートnote

*秋


戦地から弟の訃報が届いた。

両親を失くし、歳の離れた弟は俺が育てた。
兄弟二人きりで生きてきた。

不意に・・・
弟が戦地に行く前に言っていた馬鹿な冗談を思い出した。


「そうだな・・・もし俺が死んだら、兄さんにだけは伝えるよ!
どう伝えるかだが、兄さんの誕生日がいいな。」

「・・・何をどうやって伝えるというんだ?」

「勝手に死んじまうし、散々世話になったお礼も
言わなかったままだから・・・」


「・・・どうするつもりだ?」

「俺の訃報が届いた後にでも、夜の空を見上げてくれよ。
風に頼んで・・・時計に刻んでもらう。」

「何を言ってる?」

弟は笑ったまま・・・後の言葉を継がなかった。


☆☆☆


俺の誕生日。

生憎の曇天の秋空だが・・・
弟の言っていた冗談の夜空には符合している。

いいさ・・・空を見上げてやる。


微かに月明りを感じる雲が夜空を覆っていた。


不意に風を感じると、雲の一部が切り裂かれたように
図形を描いた・・・?!


時計の文字盤のように裂かれた雲の隙間を
月光が照らしている・・・?!


8時23分。


・・・ やぁ、にいさん?




全ての景色が歪んで・・・

月光の欠片ごと
笑いの粒が俺の頬を撫でた・・・!!!



【了】

(479字)


*このお話はフィクションであり、実在の人物、出来事等とは
一切の関係がありません。


*こちらに参加させていただいてます。
今回のお題は 『秋の空時計』
裏お題が・・・『腋の薔薇時計』でした。

#毎週ショートショートnote 
#毎週ショートショートnote・出品作・他
#シロクマ文芸部・参加作品




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?