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『忘刻の時に 』② チクタク水兵さん  #毎週ショートショートnote・裏お題

*何故か私に


チク タク チク タク ・・・チク タク チク タク チク タク チク タク ・・・

自分の鼓動に重複するように刻み付けるその音が
どこにいても何をしていても聴こえることに危機を感じて
修理の技術部門だった・・・時計会社の職を辞しました。

幸い、両親から不動産管理の仕事を受け継いでいたので
生活には困りません。それでもやはり時計が好きだったので
古い時計の修理に限って、SNSを通してのみ趣味のように
引き受けたりはしています。

以前の職場での後輩から相談があるとの連絡を受けました。
もしかしたら後輩に関係があるかもしれない時計に出会ったと
いうのです。そしてその時計はぜひ先輩である私に修理をお願い
したいと言うのでした。

後輩に修理を依頼された『懐中時計』は、後輩の曽祖父のものだった
可能性があるとのことでした。証拠がある訳ではなく、依頼主の話から
そう思ったとのことでした。

依頼主が遺品として見つけたその懐中時計は、依頼主の曽祖父からの
流れの物であり、戦時中に友人から託されたものだといい、その友人が
後輩の曽祖父かもしれないということでした。

後輩の曽祖父の実家が時計屋を営んでおり、実家を継ぐ予定だった曽祖父が
戦死しているとのことでした。

真相はわからないものの何かの縁を感じ、会社ではなく私に修理して欲しい
とのことでしたので引き受けることにしたのです。そのように後輩に伝えた
翌日に、依頼主だった若い女性が私のもとを訪れました。


チク タク チク タク ・・・

その『懐中時計』は時を刻んでいました。
可動しているのなら、とても古いビンテージ物とはいえ
オーバーホールで済むと思われたのですが、
女性は・・・怖いというのです。

その時計を見つけた時から急に時を刻み始め・・・
ネジを回してもいないのに動くのは変だと言うのです。もっともです。
私は技術者として時計の修理はできますが、心霊的な問題には無知ですから
躊躇する部分もあったものの、やはり修理屋の性。引き受けることを承諾しました。ただし関わるのは部品単位まで分解して点検・清掃を行うことのみです。女性もそれで承諾しました。

父親からの遺品とはいえ、もし後輩の曽祖父のものであったらお返しするとも言いました。それは二人の問題でしょう。

私はただ、修理を引き受けるのみです。



《 ○○へ。その刻み永遠たれ 》

修理を初めて早々に、文字盤の裏にそう刻まれているのを発見。後輩に連絡を取り、それが後輩の曽祖父の名前であることも確認しました。
依頼主の女性にも連絡し、時計は後輩に譲渡するとの流れになりました。
長い時を経て、やっと伝わるべき持ち主の手に還ることになりました。


オーバーホールにかけた時間は数週間。念入りに行いました。
最後にネジを巻き、その結果を確かめます・・・

確かに、力強く鼓動を刻みます・・・!!

チク タク チク タク ・・・ チク タク チク タク チク タク チク タク ・・・

その時、誰かに手を強く掴まれた気がしました?!
何か・・・想いの込められた強さで握られています。

やがて、何も感じなくなりましたが、手は海の匂いを残して
濡れていました。霊感の皆無な私には衝撃でした。

海に・・・その命を遺した水兵さんだったのでしょうか?



私にはほぼ関係のない後日談ですが、私の後輩と・・・例の
依頼主の女性との交際が始まったと聞きました。

応援はしますが、、勝手にしてください。(笑)



【了】

(1363字)


*このお話はフィクションです。実際にあった出来事とは一切
関係しておりません。


*こちらに参加させていただいてます。
今回のお題は 『告白水平線』
裏お題が・・・『チクタク水兵さん』でした。

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