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『 刺客 』聴診器が海苔① #毎週ショートショートnote・裏お題

 
 人口2000人にも満たないその町には、明治の頃から続く小さな病院があり、二代目院長の東吾先生は確かな診療と優しい人柄で誰からも慕われ信頼されていました。高齢に伴い最近では認知症の症状も進み始めていたのですが、使命感から・・・本人に引退する気はまるでありません。

 東吾先生を何とか引退させるために作戦会議が開かれ、刺客として放たれたのは、東吾先生とも幼馴染である、やはり高齢の作蔵さんでした。

 《腹痛》という設定で病院に訪れた作蔵さんに、特に作戦があった訳ではありません。どんな方法でもいいから、東吾先生に引退の決意をさせること。それが使命だったのです。

 診察室での問診後、ベッドに横になった作蔵さんの腹を触診する東吾先生・・・「これはいかんな、、?」

「えっ?」と作蔵さん。

「余命も・・・そう残されてはいない。待ちなさい。
今、聴診器を当てるから
・・・

そう言って東吾先生が持ってきたのは【板海苔】でした。
それを作蔵さんの腹に乗せて、さらに耳を当てます・・・

「懐かしい音が聴こえる・・・海の音だ。そういえば子供の頃は
二人でよく海に遊びに行ったな、、海苔の香りも懐かしい・・・」

作蔵さんはされるがままに作戦を考えますが思いつきません。

「さっき、お前の余命を言ったが、お前も・・・わしの余命を
言いに来たんじゃろ? 心配するな。さっきのは嘘じゃ。」

「・・・えっ?」

「わしの最後の患者はお前と決めていた。だから、、
お前が来るまで・・・待ってたんじゃよ。」

「先生・・・?!」

「東吾と呼べ! 昔のようにな。」

「・・・・!」


病室には、二人の遊んだ子供の頃のような
潮騒の香りが漂っていました。


【おしまい】



*このお話はフィクションです。実際にあった出来事とは一切
関係しておりません。


*こちらに参加させていただいてます。
今回のお題は 『鳥獣戯画ノリ』
裏お題が・・・『聴診器が海苔』でした。

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