誰かはバースデーでしょ?

STUTSプロデュースの「Presence V (feat. T-Pablow)」(2021.6.16リリース)は、

汚れた靴でもお気に入り
自分らしく生きられたらいい
誰かにとって高級品
でもそれは俺に必要じゃない
君には曇った日でも 誰かはバースデーでしょ?
他人と比べることよりも隣いる人

Presence V (feat. T-Pablow)

という歌詞が好きだ。
T-Pablowが歌っているので、この人の歌詞だと思う。
〈汚れた靴〉と〈自分らしさ〉なら自分らしさを選ぶ。
〈誰かにとって高級品〉でも〈俺〉には必要ない。
〈君には曇った日〉でも〈誰かはバースデー〉で晴れた日だ。
と、対比させながらどんなことが良いと思っているかを伝えている。
自分を大切にしていて、でも独りよがりになったり閉じていたりするわけではなく、バースデーを迎えた誰かがこの世界にはいることもさらりと伝える。たとえその日が自分にとっては曇った日でも。
続く〈他人と比べること〉より〈隣〉にいる人を大切にしたいというのも強いメッセージだと思う。


私はここを聴いていると、BAD HOPの「Suicide-feat.Tiji Jojo & T-Pablow」(KMプロデュース、2020.8.7リリース)を思い浮かべる。
「Suicide」は、8.7リリースの曲と、Remixがある。8.7リリースには、T-Pablowのバースがある。

この曲は、タイトルからして覚悟が決まっていて、なんでこの曲が生まれたのか私は経緯を知らないけれども、この曲を届けてくれて本当にありがとうといったい何人の人が思っただろう。膨大な数の人が思っただろうし、これからもそう思う人がたくさんいると思う。
Tiji Jojoの選ぶ言葉が、どう書いたら良いのか分からないが敢えて書くとすれば、美しく、声や歌い方に合っている。心が落ち着く。この繰り返し打ち寄せる波のような声に対して、
T-Pablowは楔を打ち込んでいくような刻み方で具体的に何が苦しいのかを歌う。それは理解されないこと。

上げてる写真
(表じゃ)笑ってるふり
(本当は)泣いてるらしい
何気無く携帯開いたらみんなリッチぶって必死
知らない奴が言うよ
こいつはビッチ、あいつはビッチって
鏡だって見ない醜いどうせ
光だって嫌い遮光のカーテン
心無い言葉のせいで心が溶けてく

BAD HOP「Suicide-feat.Tiji Jojo & T-Pablow」

誰かと比べて〈リッチぶって必死〉な〈みんな〉は、本当の姿を知らないから〈こいつはビッチ、あいつはビッチ〉と誤解し、〈心無い言葉〉を吐く。その言葉を聞きたくもないのに〈携帯を開いたら〉聞いてしまい自分らしく生きられなくて苦しい。
私はこの後の〈心が溶けてく〉という言葉遣いが好きだ。「心が溶ける」とは、一般に、心を許すとか安心するといった意味合いで使う言葉だと思うが、ここは明らかに意味が違う。生きる気力を失うという意味だと思う。自分は張り詰めて生きてきたのに、〈心無い言葉〉がその生を蝕んでいると言っているのだと思う。

この曲でも、T-Pablowは〈他人と比べること〉はしなくて良いと言っていて、他人の言葉は時に生きる気力を奪うことがあるから聞かなくて良いと伝えているように思う。
全てここで網羅するわけにはいかないが、彼には一貫したメッセージがあると思う。


このような当事者性を具体化したT-Pablowのバースがばっさりと切り取られているのが「Suicide Remix feat. Tiji Jojo, Hideyoshi & Jin Dogg」(2021.2.22)で、HideyoshiとJin Doggがこの曲に多角的な視点を持ち込んでいる。

Hideyoshiのバースでは辛い日常をなんとか生きる人が出てくる。T-Pablowの視点と同じだろうかと思って聴いていると、「死んでしまった友達に送る弔い」と結ばれるため、残された人がなんとか生きていくことが〈弔い〉なのかとハッとする。〈弔い〉、こなしていくには難しすぎる。でもそれが一番の弔いだと教えてくれている。

Jin Doggのバースで使われている"we"を聴いた時には、私は参ってしまった。こんな歌詞を書く人がいるのかと唸った。

I tried so hard
(俺はずいぶん頑張った)
神様かけてくる追い打ち
We tried so hard
(俺達はずいぶん頑張ってきた)
これ以上がないくらいに
俺に一体何求めてるの君は 何が欲しい
You don't even trust me
(君は俺を信頼すら全然してくれない)
We tried so hard
(俺たちはずいぶん頑張ってきた)
お前何言ってもどうでもいい
We grind so hard
(俺たちは身も心も粉々になるぐらいきしみあっている)
俺も友達も本気

Jin Dogg

※各種サブスク、歌詞サイトで揺れがあって、
どれが本当の歌詞なのか分かりません。Apple musicの歌詞を書いています。

良い日本語が見つからないので
( )の中に余計な言葉を書いてしまっている(拙訳です)と思って気が引ける。
つまりこれは、今自殺をしようとしている人(友達)とギリギリの闘いをしている人(俺)を描写しているんだと私は受け取っている。
〈I tried so hard〉で生きてきたのに、神様が追い打ちをかけてきて滅入っている友達。
〈俺を信頼すらしてくれない〉友達は、〈お前何言ってもどうでもいい〉と言ってくる。
心がギシギシと鳴る。友達の心もすり減っている。ただ、〈俺〉は諦めない。〈We grind so hard 俺も友達も本気〉、最後まで、いや最後にならないように、〈俺〉は〈友達〉のすぐそばにいようとしているのだ。
HideyoshiもJin Doggも、いつどんな経緯でRemixのバースを託されたのか知らないが、なんという解答を叩き出しているのだろう。

すごい曲だと思う。

🤍🤍🤍🩶🤍

🔵Remixの方、MVがあります。どうぞ。


🔵BAD HOPの「解散LIVE」、場所が決まったんですね。どこでしょうか。できるだけ多くの人が行ける場所でありますように。


⚪️お彼岸。なので、それまでにこの文章を書きたかったです。時間がかかったので、23日になりました。
でこぼこですが、なんとか書けて良かった。
おやすみなさい。

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