この街で

 この街に来て4年目になる。随分といろんな場所へ行ったし、随分といろんな人と関わってきた。幼いときからあまり住むところに思い入れがなくて、というか基本的に何にも思い入れがなくて、だから住んでいる場所や地域の人々への愛情を抱いたことはないのだけれど、この街はちょっとはいいなと思うときがある。就職するとき、実家には帰りたくないけれど、この街にならいてもいいと思うときがある。実家がある町みたいな田舎ってすごく静かだし、星も見えるし空気も美味しいから好きな人が多いことは頷ける。自然への畏敬の念でいっぱいになることによる充足感。それが実家のある町にはある。でも、その充足感があるあの町よりも私は、お腹が空いたとき歩いていけるコンビニのあるこの街が、大丈夫じゃないときでも大丈夫だよって笑ってくれる友達がいるこの街が好きだと思う。この街も都会の人から見たら町なんだろうけれど、私にとっては十分な街だと感じる。深夜に駅前に並ぶ飲み屋の前を歩いているときや、喫煙所で周りの目を気にすることなくタバコをふかしているときに匿名性がある、でもすぐに知り合いになっちゃう、その程度の街。

 4年前から徐々に変化しつつあるところもこの街にはある。道が広くなったり、きれいになったり。4年前に親しかった人のなかにはもう会うこともないような人もいる。いなくなってしまったカフェの常連さん。死んでしまったのだろうか?コロナ禍最中だった4年前とは見違えるくらい、人々が動いている。平日の昼間に、泣きながら満員のバスに乗る。目の回るようなこの街全体の変化は、ここが町ではなく街だからであろうか?それとも、私だけがずっとここにひとり立っていて、ずっと電話ボックスから電話をかけ続けているからだろうか?だれに?そういうことももう分からなくなってしまった。無限と思われたコインケースいっぱいの10円玉も、もう残り少なくなってきた。何を伝えるために?そういうことももう忘れてしまった。頭が痛かった。ダイヤルを回す指先も痛かった。

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