ノータイトル

「愛してないわけじゃないのよ、広義的には。」
彼女はそう言いながら、僕の頭を撫でた。ゆっくりと髪を触り、そして最後にちょっぴり右にある僕のつむじをぎゅっと押した。彼女が僕にこれまで何度となくしてきた行為だ。
「だから、つむじ押さないでよ。下痢になるってば。」
「でも今までお腹壊したことないでしょう?」
彼女は笑いながらもう一度僕のつむじを押した。
「愛してくれなんて頼んでないよ。ただ悲しいと思っただけ。」
「でも悲しいって私に伝えてくることはつまり、そういうことじゃないの?」
「そういうことかもしれない。」
抱き寄せた彼女の身体はひんやりとしていた。いつの間にか夏が終わっていて秋も過ぎていて、気がつけば彼女に出会ってから季節が一巡していた。季節が一巡してもひとりの女の子の部屋に行き続けていることは、僕にとっては珍しいことだった。視界の隅に映る僕の脱ぎ捨てた下着には白いシミがついていて、恥ずかしかったし情けなかった。
「ねぇ、どっかに飲みに行こうよ。あったかーい熱燗が飲みたい。」
彼女がそう言って布団から出て行こうとするのを、僕はもう一度強く抱きしめて引きとめた。

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