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Doors

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短編小説「Doors」
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#渦

Doors 第16章 〜 door

Doors 第16章 〜 door

 階段を上っていたら,僕たちはきっと帰っては来れなかっただろう.

旧造り酒屋を利用したスペースで,とある芸術家が絵を展示していた.そのスペースには階段があり2階へと上がれたが,もしそうしていたなら未来は大きく変わっていた.

薄暗くて細い通路を真っ直ぐ進むと曲がり角に差し掛かった.そこで第一のデジャヴが起きた.この場所知っている.そう感じたので,興味が薄れてきた友人三人とは裏腹に僕は

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Doors 第7章 〜 音楽

Doors 第7章 〜 音楽

 中学生時代は楽器演奏にハマった.それまでは扉の外から見るだけの世界だった.それが,演奏するということは,実際にその世界を自分自身で自由に歩くということに他ならない.
 扉を開ければ見たことない美しい景色と常識.新鮮そのものだった.近づくと消えてなくなる木,かと思えば自分の背後に突然現れたり.時には腹立たしくも思うことはあるが,その鬼ごっこは本当に楽しくて気がつくと夢中になっていった.全ての存在が

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Doors 第6章 〜 カマキリ

Doors 第6章 〜 カマキリ

 毎日毎日"渦"に悩まされていた僕の一番の友達はカマキリだった.人から出る渦の情報に溺れていたので,物静かな昆虫と触れ合うのはとても楽だった.何匹も飼ったけど,忘れられないヤツが一匹いる.仮に名前をKとしよう.
Kとの出会いは特別なものではなかった.ただ,Kは他のどのカマキリにもなかった特徴があった.それは,信頼という概念を持っていたことだ.普通のカマキリは虫カゴに入れると脱走しようと必死に

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Doors 第5章 〜 いじめ

Doors 第5章 〜 いじめ

 それはある日突然始まった.内容自体はつまらないものだった.無視や仲間はずれ,鬼ごっこでの集中攻撃などその程度のことで,直接危害を加えられたりとかはされた覚えがない.辛くもあったがどこか他人事のようにも思え,その非日常感を楽しむ自分もまた存在していた.
 連中同士は決められた合図を送っていたが,合図とともに"渦"が出ていたのですぐに分かった.その度に合図を変えていたけどその都度見抜いていた.気づい

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