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双極性障害と海岸のトンビ

仕事が休みの日は、よく海に行く。

別にマリンスポーツやバーベキュー、犬の散歩に行くわけではない。
ぼーっと波を眺めたり、砂浜をとぼとぼ歩いたり、「潮風が気持ちいなー」って呟いたり、つまりは頭上を飛んでいるトンビのように、1人で羽を伸ばしてくるのだ。

私が普段行ける範囲にある海は、人が多くて、結構賑やかだ。
ヨットに乗って、ヨガでもしているのだろうか、バランスを崩して海に落ちていく人の笑い声が聞こえてくる。
本当はもっと誰もいないところに行きたいのだけど、「そういえば海ってパリピが多く集まる場所だもんなぁ」なんて考え、夏になったらもっと人でごった返すのだろうと想像した。

立っていると疲れるので、しゃがむことで少しだけ波と目線が近づく。
目を瞑ると、波の音や人々の話し声や叫び声が聞こえてくる。

すると、突然私の背負っているリュックに軽い何かがぶつかった。
何だろうと振り向くと、そこには、ボールを咥えた犬が息を切らしながらこちらを見つめていた。
「こらー」
その声に反応した犬が、すぐに私から目を離して飼い主の方へと駆けて行った。どうやら飼い主が投げたボールを、間違えて私に届けにきてしまったのだろう。まるで小さい子供が、間違えて知らない人をお母さんと呼んでしまったような、そんな微笑ましさがあった。

砂浜を後にして歩道を歩くこと30分くらい。小さなお店でドーナツを買った。
「当店限定」という文句に弱い私は、あんこがたっぷり入ったとても甘そうなものを一つ選び、紙袋に入れた。
先ほどいた砂浜とは違い、岩場が多いところに向かった。砂浜では汚れてしまうので、乾いた岩に座ろうと思ったのだ。

堤防には釣り人、海に程近い岩場には3人組がいたので、ちょっと海から離れたところに腰を下ろした。
紙袋からドーナツを取り出して、一口食べる。
見た目通りの甘さが、歩き疲れた体を喜ばせる。
それに、目の前には海が広がっている。
ドーナツの穴を覗いて海を見たかったが、そこにはぎっしりとあんこが詰まっている。これはお腹が満たされそうだな。

と、そんなことを考えていたら、いきなりバサッ!と大きな音がした。
びっくりしたのだが、何が起きたのか分からなかった。
先ほど見かけた3人組が、「わっ!」と驚き、続いて「トンビが…」という話し声が聞こえてきた。
トンビ。そうか!つまり、私のドーナツめがけてトンビが突っ込んできたのだ。
幸い、ドーナツはちょこっとだけ取られただけで、あんこはまだぎっしり詰まっている。
私は、再び狙われるのを避けるため、あと、3人組に見られていたのが恥ずかしかったので、その場から離れることにした。
(海を見ながらたべたかったなぁ…)
波の音が遠く、やがて聞こえなくなった。

私はベンチにある神社に座り、残りのドーナツを食べた。
あんこはもちろん美味しかった。
トンビに狙われたのは初めての経験だったので、気持ちが落ち着いた今となっては、こういう経験もありかな、と思えた。昔、テレビで同じような被害を受けていた人達を見たことがあったので、自分も仲間入りだな、とよくわからない納得感を得ていた。

そして、「トンビって私のことをコミュ障とかぼっちとか関係なく接してくるんだな」と考えていたら、この日一番、心がじんわりしていることに気が付いた。

動物って、人と違って気を遣わない。
ボールを咥えた犬は、特に謝らずに飼い主の元へと「もっと遊ぼうぜ」と尻尾をグルングルン回していた。
ドーナツを咥えたトンビは、私が3人組に見られて恥ずかしがっていることなどお構いなしに優雅に空を飛んでいる。

彼らにとって、私のややこしい性格とかはどーでも良い。
そんなことは気にもせず、ただボールを渡す相手として、ドーナツをくれる獲物としてしか見ていない。
私を差別や区別していない。
私を他の人と平等に見ているのだ。

なんて考えてしまう自分、やっぱり変だな。

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