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Dead Head #11_108

 確かめる機会が欲しくなった。万引きしたら、彼女がどんな行動に出るのか?だが、それは今ではない。
 目当てのものを掴む。それをレジに放り投げる。彼女の怪訝そうに細めた眼を見据えながら。次に勘定の小銭を叩きつける。いつもながらの慣れたやりとり。今日は放り出した釣り銭が飛んでいかない分、いいほうだ。
 公園に戻る。広場は太陽の光で白く滲んでいる。ベンチは光を反射して熱そうだ。植え込みにのっそり腰を下ろす。
 思い出す。あの夏。蜻蛉のように歪んだプラットホーム。鉄道学校に入る前の中学生。ホームの表示板に回送列車の文字。列車を待つ間、ホームの下に敷き詰められた砂利を見下ろす。油に薄汚れた砂利の間を、灰色の子鼠が這い回っている。砂利の上は、流転禁止と書かれた立て札が突き刺してある。線路の向こう、交代の運転士が夏の日差しを避けるように鉄塔の細い陰に隠れる。


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