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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #89_280

 留置所の鍵を開ける音。薫陶は扉に目をやる。薫陶を見つけ、劉は苦笑いを浮かべている。
「また、会ったな」
「逆探知されたの?劉さんも」
「ああ、そのようだ。ここに押し込められている連中、俺達と同罪なのか?」劉は周りを見回す。
 薫陶は頷く。同房の若者達は劉を見つめる。怯えが入ったような、虚ろな眼で。
「俺達、灌水をやってただけだ。お互い、今まで会ったこともないのに」一人が言う。
「安住の地を奪われたってわけか。お前らも。網絡に繋がる全ての端末が、政府のものになった今となっては」
「劉さん、ぼくたちどうなるの?」薫陶は心細そうだ。
「どうにもならない。俺達、監獄に放り込まれているんだ。成り行きに任せるしかない。そうだろう?」