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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #102_291

 それから、劉は昼夜を分かち歩き続ける。劉はどこを目指しているのか?そこは薫陶も向かっているはずの場所。
 黄海を望む山東半島に位置する港町。かつては、対岸の隣国への亡命ルートとして注目された。密航拠点だった漁村は寂れ、隣接するフェリーターミナルには旅客船の姿もない。この騒動で、目ざとい人間は隣国に渡っている。この近辺の住人は隣国の出身者も多い。
 運河を跨ぎ二俣に分岐した軌道。火車が通過して行く。火車が残していったのは、炎の跡だけだ。運河のぬかるんだ中州に立ち、劉は通り過ぎる火車を見送る。中州には軌道を支える支柱。その間には、木造棚屋が連なっている。棚屋の扉が開く。薫陶がひょいと顔を出す。どこか精気のない顔。
「最期の火車が行ったね」と薫陶。
「ああ。乗り遅れたな」