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【短編選集】‡3 電脳病毒 #130_309

 ズボンがチェーンに引っ掛からないよう、右裾をゴムバンドで巻く。まだ陽の高い街に漕ぎだす。夕刊が満載で、ペダルもハンドルも重い。
 夕刊の配達を終え、波波屋へ。店は夕陽に照らされ橙色。店内のサーフボードも鋭角的に切り取られた夕日に照らされている。曲線美が際だつ。今朝、拾ってきたサーフボードと比べ、新品なら当然だ。店の奥を覗く。白髪の男がサーフボードを熱心に磨いている。ドアを開ける。ジャズが静かに流れている。波乗りにジャズが合うのかどうか・・・
「こんばんは。港屋新聞店です」
「新聞ならとってる」男は顔も上げず言う。
「あの、集金で来ました」
「知らない顔だな。いつもの奴は?」男は手の動きを止め顔をあげる。
「あの、佐田でしょうか?」
「名前は知らない。まあ、いい。いくら?」
男は薫陶の前を横切り、レジを開く。