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【短編選集】ここは、ご褒美の場所

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どんな場所です?ここは。ご褒美の場所。
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2023年2月の記事一覧

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #118_298

写真は家族と一緒に撮るものでしかない。芸術として写真が認められることもない。あの国では・・・。 「波乗りはしますか?佐田さん」 「波乗り?するように見えるか?」佐田は膨れた腹をさする。 「波乗り板を拾ってきたので。塵捨て場で」 「どうして、サーフィンなんか?」 「国に戻れたら、のってみたい」 「そんな海辺あるのか?」 「海ではないです。川です」 「川?そこでサーフィンやろうっていうのか。いくら川幅が広いたって、のれるような波なんか」佐田は茶を丼に注ぎだす。 「あるんですよ。年

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #117_297

 佐田は住み込みの中で最古参だ。四十代らしい。若い頃、パンクロックをやっていたという。そのときの名残か、佐田の髪はいつも角のように宙に突き立てている。太ったパンクロッカー、人気あるんだぜ。というのがいつもの口癖だ。朝刊のあと、佐田はいつも写真を撮りに街へ。写真学校に通っていた名残という。午前中、写真を撮り戻ると、夕刊が配送されてくる頃まで暗室に籠る。暗室といっても風呂場を借りるだけだ。酢酸の臭いが不評を買っているのだが、佐田は気にしない。何かのコンテストで優勝し、自ら写真展を