風巻 千晴

興味を持っていただけて大変嬉しく思います。 きっかけがあって、初めて自分の創作を世に送…

風巻 千晴

興味を持っていただけて大変嬉しく思います。 きっかけがあって、初めて自分の創作を世に送り出してみようと思いました。 読んでくれた方が自分と同じ景色を想像してくれていたらいいなあ、なんて思います。

最近の記事

ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【エピローグ】

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門 【エピローグ】     「しょうがないじゃないすか、生放送で配信されちゃったんすから! オレだって仕事でやってるんすよ!」  犬飼が都倉を引っ張っているところに、志波と奥森が駆けつけた。 「犬飼くん。どうしたんだ、都倉くんは」 「この人なら、ひったくりでしょっぴかれるところっす」  無慈悲に犬飼が答える。 「ま、自業自得っすね」 「あ、あの……そのことなんだけど」  奥森が犬飼の様子を窺いながら、おずおずと手を挙げた。 「僕は……鞄

    • ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【7】

      #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 【7.都倉圭介】     「……っあ~……どうしたらいいのか、全然わっかんね……」  あとはまかせた。きみならできる。  都倉は事務所の入ったビルの路地裏に座り込んで頭を抱えた。ここで初めてバッグの中を見たのが遠い昔のように感じる。 「里見くんは、何をしようとしていたんだろうな」 「警察がいて事務所の中に入れませんね……」 「わかんねえ……里見がいなくちゃ、俺なんにもできねえよ……」  弁当の入ったレジ袋を置きながら奥森が背中をさす

      • ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【6】

        #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 【6.急襲】      奥森が事務所で寝泊まりするようになってから数日が経った。 「……おっくん、今までずっと気ぃ張って疲れてたんだろうな。今日もぐっすりだ」 「ああ。しばらくは奥の部屋を使って休んでもらおう」  深夜、相変わらず人通りの少ない窓の外の景色を見ながら里見があくびを噛み殺した。あれから作戦会議はまた後日となったものの、里見には何やら色々と考えていることがあるらしく、忙しい日々を送っている。 「部屋っつうかアレさあ……も

        • ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【5】

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 【5.決壊】     「えっ……え? どういうこと?」  一転して他殺を認めた奥森と志波に動揺を隠せず、都倉は里見を振り返った。里見がため息をつきながら二人を見る。 「……一応、今になって供述を覆した理由を聞いておこうか」  言いづらそうに、先に志波が口を開いた。 「たしかに俺は……俺たちは、今まできみたちに事実とは異なることを言ってきた。それが、彼女の遺言のように感じていたからだ」 「……僕は、お嬢様の遺志を守ろうと闘っていたつも

        ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【エピローグ】

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【4】

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 【4.津波】      奥森の家を後にする頃には、夜はすっかり更けていた。事務所への帰り道を、等間隔に並ぶ街灯が寂しく照らす。もう電車も動いていないような時間帯だ。通りを歩いているのは都倉と里見の二人だけだった。 「志波さん、かぁ……なあ里見、どう思う?」 「どうって?」 「志波さんはその……月宮ちゃんの死に関わってんのかな」 「……現状まだ判断できない、と答えるのが妥当だろう。結局、奥森が何を隠しているのかはっきりさせられなかった

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【4】

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【3】

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 【3.灯火】     「……というわけで鑑識の結果、この血液は月宮薫子のものと一致しました」 「よくやった、犬飼」 「へへ、それほどでも。オレは役に立つ犬なんで」 「ちくしょー……どうせ俺は空気だったよ」  翌日、都倉たちは里見の事務所で作戦会議を開いていた。 「なんや里見クン、やたら自信満々や思てたけど、そないなブツ持ってたんかい。怖いなぁ」  何故か参加している松風に、犬飼が声を忍ばせて問いかけてくる。 「……あの人、誰です? 

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【3】

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【2】

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 【2.残り香】     「いただきます」 「どーぞ。あった物で適当に作ったから口に合うか分かんねえけど。あ、里見……は、目玉焼きはソース派? 醤油派?」 「僕は生まれて此の方、醬油派だ」 「あ~……っぽいわ」  日付は変わって朝。醤油の入った小瓶を里見に差し出しながら、都倉は小さくぼやいた。 「ったく、これじゃ用心棒じゃなくて家政夫だよ……」  む、と里見が都倉を見上げる。 「住む家もないだなんて聞いてない。きみの当面の生活費は誰が

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【2】

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【1】

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 【1.里見孝太郎】      掃き溜めに鶴。第一印象はまさしくそれだった。 「……なんだ、客か? 騒々しいな」  古ぼけたビルの一室に誰か立っている。窓際で逆光に照らされたその人物が、ゆっくりと振り返った。眼鏡の縁を反射させて、その奥で長い睫毛が日に透けている。たったそれだけの光景に、妙に心が奪われた。 「あ……えと……その、俺」 「ご依頼なら、そちらの椅子にどうぞ」 「あっ、ウス……失礼します」  バッグを抱きかかえながら、指し示

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【1】

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【プロローグ】

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 #ミステリー #青春 #アクション #爽快 【プロローグ】(本編)  ほんの出来心だった。  街の雑踏に身を任せる。夕暮れ時の長い影が、今なら自分の罪を覆い隠してくれるような気がした。品定めをした相手ににじりと忍び寄る。今だ、と半ばヤケになって踏み込んだ。 「……ッ!」 「あっ……!」  背中に追いすがる声を振り払って、奪ったバッグを握りしめて走り去る。周りの景色なんて見えちゃいなかった。目の前の道を滅茶苦茶に走って、曲がって、息が

          ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【プロローグ】