小さな巨人ミクロマン 創作ストーリーリンク 「タスクフォース・コーカサス」 0101

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-……-
「雨?……私は好きよ、雨の日は素直になれそうな気がするから」

その質問に、彼女は含羞みながら決まってそう答えた――

「アメノ隊長!恐らくブレスト機能の一部に障害が……」
一糸まとわぬ姿のレディーコマンドが、白く大きな羽根を広げて横たわる――

「どうしてここに奴らが!」
苦渋に満ちたアメノの顔に、容赦なく降り付ける雨――

「お願い!大至急救援を!!」
叫ぶアメノの頬に、濡れた髪がまとわり付く――

「各自で対応して下さい!こちらにも余力は……」
通信機から返される悲痛な声は、非情な宣告――

「そんな……」
アメノの横顔を流れ落ちる絶望の影、そして雨粒――

「ウワーッ!!」
逃げ惑う地球人の姿、姿、姿――

「どけッジジィ!邪魔なんだよッ!!」
労るべき老人を押し退け、その体を踏み越えて逃げる青年――

「パパーッ!ママーッ!!待ってーッ!!!」
護るべき我が子に目もくれず、我先にと逃げる親――

「ギャーッ!!」
眩いフラッシュバックの中、人々の影が縮んで行く――

「……お、お前らも……化け物の仲間かッ!」
地球人達の脅えた表情が、憎しみの色に変わる――

「……コ、コイツら……〔女〕……みたいだぜ……」
男達の眼に満ちる、狂気と獣の光――

「……ど、どうせ、俺達も死んじまうんだ……ヤッちまおうぜ……」
薄汚れた男達の手が、アメノ達に迫る――

「お願いッ!やめてーッ!!」
レディーコマンドを我が身で庇い、絶叫するアメノ――

「ウギャーッ!!」
断末魔の声と共に、撒き散らされる血の雨――

「判ったか、これが奴らの本性だ……お前達が、命懸けで守ろうとした奴らのな」
逆光の中に機械の様な四肢、そして血の色のマフラーがなびく――

「イヤァァァーッ!!」

-コーカサス内アメノの自室-
暗い部屋の中には、ベッドの上に半身を起こしたアメノの姿があった。

「……ハァ……ハッ……ハァ……」
室内は適温に設定されていたにも関わらず、全身を汗で濡らし、その頬には髪がまとわり付いていた……まるで、あの日の様に。

「……また……ゆめを……」
エリュシオン会敵から一週間……忘れていた筈の〔悪夢〕に、彼女は心と身体を蝕ばまれ続けていた。

「……ウッ……ウゥッ……」
悲しみと苦しみに彩られた瞳に、ベッドサイドのテーブルで鈍い光を放つ十字架のペンダントが写る。

「……クッ……ウッ……」
その寂れたペンダントを抱き締め、嗚咽を漏らすアメノ……窓の外では、既に夜が白みかけていた……

『……そう、あの日から……雨は嫌いになった……』

(22/12/03)

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