南仏ビオットの祭り
旅先でバスに乗り、ふらりと立ち寄った南仏ビオットのお祭りは、中世のコスプレをした人で溢れかえっていました。
普段はカメラを向けられるのを避ける方々も、お祭りのときは撮らないの? と逆に聞いてくれたりします。
露店も出ていますが、日本の屋台のように「たこ焼き」や「りんご飴」などの食べ物が売っているのではなく、歴史を再現しているといった感じでしょうか。昔のコインも展示されていました。
次は道行く人たちとにこやかに言葉を交わしている遊牧民ぽい人たち。
彼らの演じているものは、何なのかわかりませんでしたが、テントや藁、毛皮などで設えたその一角は、見物人が集まっていました。
説明文がフランス語なので、私にはさっぱりわからなかったのですが、昔の衣装に身を包んだ店主や品々を見ながら歩くのは楽しかったです。
次は説明がなくても鍛冶屋さんだと分かりますね。トンカントンカン鉄を打つ動作をしていました。
このテントの横には、自分がデザインした紋章を作れるコーナーが設置してありました。
子供たちが真剣に考えた紋章を紙に描いた後、粘土にその紋章を彫ると、鍛冶屋さんスタッフが銀を流し込んで仕上げてくれるのです。
私もやりたかったのですが、子供たちの中に片言フランス語の外国人が座ったら目立ちすぎると思って遠慮しました。
でも、心の中では未練が渦巻き、ああ~~~っ、自分の紋章作りたい~っと叫んでいました。
もし子供たち専用のコーナーだったとしても、そこはほら、私フランス語わっかりませ~んで通す……勇気があれば良かったな~(笑)
テントが並んだ通りを歩いていると、最初に出会った十字軍騎士の格好をした祭りの実行委員さんを見つけました。
おやっ? 小さなかわいい男の子が寄っていき、何かを言っています。
僕を騎士にしてくださいでしょうか。騎士はマントを片手で払いのけ、脇に刺した剣を抜き……えっ? 成敗しちゃうの? と一瞬焦りましたが、騎士はよかろう。そこに跪きなさいと言って、地面を指しました。
子供は言う通りに跪き。期待に満ちた眼差しで騎士を見上げます。
騎士がそなたを騎士に任命すると宣言しながら、子供の肩を交互に剣で軽く叩き、最後に三度肩を叩いて叙任式を終えます。
すると、小さな男の子ながら、騎士になれた喜びに目を輝かせ、ものすごく誇り高い表情を浮かべるんです。見ていて感動しました。
いや~っ、いいもの見たな~と感動を引きずりながら歩いて数歩。背にした場所から女の子のぐずる声がするので、思わず振り向き状況を把握した途端に、笑ってしまいました。
先ほど男の子に騎士の位を授けた十字軍騎士が、困っています。
なんと、ちいさな女の子が、あたちも騎士にして~~っ。ねぇ、ねぇ、騎士になりたいの~とおねだり。騎士からすっかりただのおじさんに戻った実行委員さんが、ごめんね~、女の子は騎士になれないんだよ~と説明します。
いや~っ。あたちも騎士になるの~。
お兄ちゃんらしき男の子が止めようとしますが、女の子はするりとかわして、おじちゃ~んとおねだり。おにいちゃんはお母さんの方を見て苦笑していました。
次に出会ったのは、光沢のある青灰色の生地に、銀糸と金糸の刺繍が施された豪華な衣装を着た貴婦人でした。
気品漂うマダムに写真を撮らせて下さいと頼んだら、ちょっと待ってと言って、子供たちを呼んでくれました。
みんなとてもかわいいです。
このお祭りは、今もあるかどうかは定かではありません。
以前は夜もあったそうで、白い衣装を着たブロンドのハンサムな領主?とブロンドで美しい奥方が、松明を持って村人とともに歩くCMが流れていました。
昼間は広場で大勢の騎士が決闘する場面なども映っていましたが、私は残念ながら見られませんでした。
まるで、異世界に飛ばされたようなお祭りの思い出は、一生の宝物になりました。