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あいつと俺

昔書いたオリジナルのショートショートです。
珍しく、頭から終わりまできちんと道筋ができて、書くのが楽だった話でした。
書き終わってやることは、言葉とか表現を微調整するだけでした。
こんな作品に巡り合えたのは幸せですね。
出来はともかく(笑)。
文庫メーカーで作成したものを、pixivにも同時に掲載しております。

あいつと俺

 あいつはいつも俺の恋の邪魔をする。何故か、俺が好きになる人を奪う「癖」があるのだ。
 あいつはカッコよかった。女の方からあいつに近づいて来た。でも本気の恋はしてない。俺はそんなあいつをずっと見ていた。
 俺には最近、本気で好きになった女がいたが、あいつにだけは紹介しなかった。だが、あいつはすぐ嗅ぎつけ、俺と彼女が話している横から、彼女を攫って行った。俺は嫌な予感がした。
 一日彼女と連絡が取れないだけで不安だった。あいつと彼女が一緒にいるかも知れない。疑惑が俺を責める。たまらず、俺はあいつの部屋に行った。すると、部屋から彼女が出て来た。驚く彼女を買い物に行かせると、この状況でもあいつは悪びれず、まああがれよと言った。
 俺はいきなりあいつの胸倉を掴んだ。するとあいつは、平然と言った。
 俺はお前の代わりに女の品定めしてやってんだ。あの女はやめとけ。かわいい顔してしたたかだ。
 にやりとしてなるほど、女にモテそうな色気のある顔。
 お前にふさわしい女は、俺が見つけてやるよと、あいつはうそぶいた。
 バカやろう! 何故彼女なんだ? 遊ぶ女は他にもいくらでもいるだろう?
 殴ろうとする俺の手をあいつががっちり掴んだ。
 バカはどっちだ。お前だって本当はあの女のことを愛してないんだ。よく自分の胸に聞いてみろ。
 あいつの言葉に治まるどころか、俺は逆上した。あいつの腹を蹴ってあいつ怯んだ隙に、掴まれた手を引き抜き、側にあったノートパソコンを、あいつの頭の上から何度も振り下ろした。
 キャーッという悲鳴が聞こえ、振り向くと彼女がいた。彼女は部屋を飛び出して行く。俺はぼんやりそれを見送った。
 あいつは頭から血を流していた。揺り動かしてもピクリともしない。俺は全身の力が抜けて、そのまま座り込んだ。
 俺が殺した?
 俺はその言葉を反芻した。俺が殺した!
 やがて毒が全身に回るように、俺はその事実に身悶えた。
 そうだよ、お前の言う通りだ。俺は彼女なんか愛してなかった。俺が思い焦がれ、見つめ続けて来たのは、お前だ。何年も、胸の奥に隠し続けて来た。
 あいつは、俺がつき合う女を片っ端から奪っては、恋人の友達と寝るような女はやめろと言った。そうすることで、俺を振り向かせようとした。
 だが俺は認めたくなかった。認めたら、俺は新たな嫉妬に苦しめられる。あいつが女といる方がまだマシだった。
 でももうそれも終わりだ。俺達はもう嫉妬に苦しまないで済む。
 遠くからパトカーのサイレンが近づいて来た。

                               終わり

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