見出し画像

【初心忘るべからず】 に込められた世阿弥の思い

写真は、前回の【三人寄れば文殊の知恵】で紹介した、下掛 宝生流 ワキ方 能楽師 安田登先生の著書 ”能”です。
私はよく本に書き込みをするので、いつも本にペンを挟んでいます。
この消せるボールペンは本当に便利です。
写真のペンは、私の心の師匠からの頂き物ですので、大切に使わさせていただいています。

さて、今日はこの本に書かれている【初心忘るべからず】について、安田先生から学んだことをご紹介したいと思います。

【初心忘るべからず】は、”能”を大成した世阿弥の超有名な言葉です。
”それを始めた時の初々しい気持ちを忘れてはならない” というように学んだと思います。
しかし、安田先生は、「世阿弥はこのような意味で”初心”という言葉を使っていない。」と言います。

初心の初という文字を偏(へん)と旁(つくり)に分けると、
  初 = 衣 + 刀
これは、衣を刀で裁つことを表しています。

昔は着物がとても貴重品でした。
先祖から引き継いだ大切な着物を、自分に合うように仕立て直しをするためには、着物に刀(鋏)を入れなければなりません。
着物とともに過去の思い出までも断ち切ったのではないかと想像します。

つまり、【初心忘るべからす】とは、”折あるごとに古い自己を裁ち切り、新たな自己として生まれ変わらなければならない、そのことを忘れるな” という意味だと安田先生は説いています。

この話をお聞きした時に、私は安田先生に質問しました。
「全てを裁ち切っていいのでしょうか? 大切なものまで失うのではないでしょうか?」
すると、安田先生はこうおっしゃいました。
「思いきり裁ち切っても大丈夫です。 本当に大切なものは、あなたの中に残ります。」

世阿弥は他にも”老後の初心”というように”初心”を使っています。
年を重ねると、過去にしがみつくかのように過去の栄光や自慢話をよくするようになります。
世阿弥はこれを戒めているように思います。
年をとっても、新たな自己に生まれ変わろうとする気持ち(初心)の大切さを説いているのだと思います。

前期高齢者の私ですが、老害と言われないように、また、年代を超えて様々な人との交流を深めるためにも、大切なものを失わないためにも、”初心”を実践して行きたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?