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深い海の中からあなたを想う

深い蒼が広がるとても静かな場所。
少し離れた所には、一筋の澄んだ明るい光が伸びている。

ゆらゆらとゆりかごの中で眠る赤子のように
ゆっくりとした時間の流れを生きる。


もう随分まえのこと。
ひとりの人魚が
愛しい恋人の死を悼んで涙を流した。

その涙の一粒が
深い海の中を沈んでいくうちに
一粒の宝石になった。
それが私。


私の中には
その時の人魚の想いが残されている。


海面に伸びる夕陽の道が
月の道に変わるまで
毎日飽きもせずに愛を語り合った。

時には
イルカと競争するように
2人で泳いだこともあった。

あなたといる時間だけが
私のすべてだった・・・

どんどん溢れ出す私の好奇心が
深く知りたいと思う気持ちが
まさかあんなことになるなんて・・・


いつものように
たわいない話をあなたとしていたら
遠くに暗く広がる雲が見えた。

“嵐”という存在を知らなかった私。
初めて見る雲の下が
どうなっているのか知りたくなったの。

あなたは“嵐”がどれだけ恐ろしいものか
私に教えてくれたのに
とても怖いものだと教えてくれたのに
どうしても自分の目で確かめたくなった。

私の中の好奇心を抑えきれず
遠くに広がる暗い雲に向かって
どんどんスピードを上げて泳ぐ私に
驚いたあなたは
慌てて止めようとしたのに・・・


私は雲に近づいてその恐ろしさを
目の当たりにした。

見たこともないくらい高い波
激しく降る雨
轟音と共に落ちる光・・・

あっけに取られているうちに
私は高い波に引き寄せられていた。

なすすべもなく
高い波に囚われた私にも見えた
少し離れた場所にいたあなたの姿。

必死に私の名前を呼びながら
手を伸ばしていた。

あなたの手をとらなきゃ・・・

そう思った瞬間、
轟音と共に辺りがまっ白になったの。

何が起きたの???

何も見えないし
何も聞こえない・・・

そんな状態がしばらく続いたあと
暗かった空が明るくなり
あんなに高かった波が
いつものような穏やかな波になった。

そして
静かな波の上で横たわるあなたを見つけたの。

慌ててあなたの元に泳ぎついたけれど
「・・・・・・無事で・・・・・・よかった・・・・・・」
微かに聞こえる声で呟いたあと
あなたの瞳から生命の輝きが消えてしまった・・・

「あ・・・・・・あぁ・・・・いやぁ・・・・・・」
あなたに抱きつき、
何度もあなたの名前を呼んだけれど
あなたの瞳に生命の輝きが戻ることはなかった・・・


その時に流れた涙から生まれたのが私。

初めは後悔と贖罪の想いだけだったけれど
いつの間にか
あなたと過ごした時間を懐かしむ想いで溢れるようになった。

あなたといる時間だけが
私のすべてだった・・・

そう思えるようになった頃から
私の身体に明るい光が射すようになったの。

まるであなたが
「幸せだった時間を忘れないで」
と言ってるみたいに。

その光に誘われるように
あなたと過ごした光景がどんどん広がって
あなたへの愛しさが溢れるようになると
私の中から広がる光も明るさを増すようになった。

あなたへの想いは消えない。
この深い蒼が広がるとても静かな場所で
いつまでもあなたを想う愛しさと共に
私はゆっくりとした時間の流れを生きる。



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