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最近話題になったニュースから英語を学ぶ(1)


最近話題になったニュースから英語を学ぶ

英語はとにかく語彙が多い(多すぎる)ことで悪名高い言語です。1万単語を覚えても10歳の子どもの英語しか話せないことはよく知られています。一般的な英語の成人ネイティブスピーカーは平均3万単語の語彙量を持っていますが、日本人だから語彙は少なくてもいいとことにはなりません。どの言語でもそうですが、語彙量というのは、その人の教育レベルを表すからです。
私は、仕事上毎月数人から10人くらいネイティブにインタビューしなければなりませんが、相手は私を対等とみているので容赦ありません。ここで重要なことは、話したり、書いたりするときに使える語彙、つまり表現語彙(active vocabulary)を常に増やす努力をすることです。英語の小説やノンフィクションなど本を読むのがベストですが、私の場合、今まで読んだ英語の本は日本語の本よりもはるかに多いです。
しかし、そのやり方を人に押し付けることはできないので、少なくとも最近の話題について、ネイティブと自由に話せるようになることを念頭に置いて、知って得する語彙を文章と共に紹介します。ここで言う語彙は単なる単語だけではなく、イディオム、表現も含まれます。単に辞書に出ているからと言って使うとネイティブが変な顔をすることがありますが、それは実際にはもうほとんど使われなくなっているからです。そういう意味で最近話題になったことを取り上げるのがベストです。ニュースだけではなく、そのニュースに関してコラムニストが書いたコラムや社説も含まれます。特にコラムニストは洗練された表現を使っていることが多く、常に勉強になります。

まず英語学習について頭に入れておいてほしいことを書きます。
日本に長く住んでいるバイリンガルのネイティブ(英語話者)は、日本語の発想を知っているので、日本語の味が残っている英語を話してもわかってくれます。それを基準にして話したり書いたりすると、通じないことは往々にして起きます。『英語のあや』の著者であるトム・ガリー氏は「日本語を母語とする人が英語で文章を書くと、あるいはその人が日本語で書いた文章が英語に訳されると、どうしても日本語の味が残る。その味は必ずしも不味い(まずい)わけではないが、不慣れな英語話者には美味しくないことが多い」と書いていますが、ネイティブはそういう日本語の味が残る英語に拒否反応を示す人が多いことは確かです。だからネイティブのために訳された日本文学の英訳は、日本語の味を残していない英語になっているのです。
外国人が英語を学習する場合、文法は必要です。それを否定するつもりは毛頭ありませんが、日本で教えられる英文法はあくまでも意識的な文法であり、言語の学習には圧倒的に多くの無意識な知識が必要です。ほとんどの場合それは説明できません。意識的な文法の学習に基づくやり方では自然に話すことができないことは言語学者のクラッシェンが指摘しています。『言語の脳科学』の著者である酒井邦嘉氏は「ネイティブ・スピーカー(母語の話者)は気づいていないのに、くわしく調べてみると確かに一定の規則に従っている場合が無数に存在する。その多くはほとんど説明がつかないので、文法書にも書けないわけだ。英文法の教科書をいくら完全にマスターしても英語がうまく話せるようにならないのは、むしろ当然である」と書いています。
英文法の試験はいつも満点なのに、英語の本がすらすら読めない人は多い。逆に英文法の試験がよくなくても英語がすらすら読める人もいます。私に言わせると後者の方がはるかに将来英語が伸びる人です。酒井氏は同著で「文法的かどうかの判断は、その言語を母語とする話者の直感に頼っており、客観的な評価は要求されない」と書いています。さらに「言語は、膨大な数の無意識な文法の規則に従ってできあがっている。外国語を身につけるには、理屈抜きにこれらの文法を頭に入れる必要がある。外国語が達者の人は必ずしも一般の記憶力がよいとは限らない。むしろ、このような無意識な文法を、無意識的にそのまま覚えられるようなセンスのよさが大事なのであろう。もっとも人間的な能力の一つである言語が、努力によって力業で習得できるものではない、というところに言語の奥の深さがある」と書いております。
英語を母語とし、標準語の日本語、関西弁、ロシア語、ポーランド語が同時通訳できるレベルのロジャー・パルバース氏は『10年間勉強しても英語が上達しない日本人のための新英語学習法』で、英語を学習する心構えとして「英語はとんでもなく難しく、複雑で、変則的な言語である」と喝破しています。さらに「英語は外国人が習得するには、ものすごく難しい言語である」と率直に語り、「私は、自分が英語のネイティブスピーカーとして生まれためぐりあわせに感謝せずにはいられません」と書いております。私の知人で、日本語とバイリンガルのアメリカ人たちも異口同音に「英語が母語でよかった」と私に言いました。

 さて話を戻して、英語の一番のネックの一つは語彙の多さであることは最初に述べましたが、語彙を増やすにはどこに(ニュースとかコラムとか)どういうふうにそれが登場したかを頭に入れると、脳に浸透しやすいです。単なる文章ではなく、以下の例文で示すように、バイデンとトランプのTV討論でのバイデンの失態に関するニュースでその単語・イディオムが出てきたというふうに具体的な話題とつなげると脳に浸透し、それをネイティブとの会話で実際に使えば、アクティブ語彙になります。アクティブ語彙にするには、話したり書いたりするときに実際に使うしかありません。インプットと同時にアウトプットがなければ、アクティブ語彙になることはありません。
 これから不定期に話題になったニュースやそれに関するコラム、社説などから生きた表現や役に立つ語彙・イディオムを紹介します。また一つのニュースやコラムの中でも同じことを言うのに表現を変える傾向があるのが英語です。第1回目の<大統領選から撤退する>に関する表現で、日本語の場合は<撤退>という言葉を繰り返すのが普通ですが、英語では一つのコラムや社説内でも表現を変える傾向があります。
第一回は無料ですが、第二回の途中から有料(といっても安いですが)にするかもしれません。表現を集めるのにかなりの英文を読まないといけないので、ご了承くださいませ。

©Kazumoto Ohno(大野和基)

第一回

バイデン立候補撤退に関する報道から学ぶ表現と語彙

1.      (選挙戦から)撤退する、辞退する

Top Democrats — Chuck Schumer, Hakeem Jeffries, Nancy Pelosi — and senators, representatives and other candidates who face losing in November need to ask this president to voluntarily step aside.
(I Love Joe Biden. But We Need a New Nominee.: Guest Essay, George Clooney,
New York Times (Online)  Jul 10, 2024)

How can so many people be clamoring for Biden to step down?
(newsletter dated Jul6 6, 2024 Eurasia Group Ian Bremmer)

Shortly after he finished speaking, Rep. Jim Himes of Connecticut became the 14th House Democrat to say he should end his candidacy, underscoring the impossible predicament in which Biden now finds himself in.
(Wall Street Journal, July 11,2024)

Enough high-level pressure from trusted colleagues builds for him to pull out.
(newsletter dated July 6, 2024 Eurasia Group Ian Bremmer)

GEORGE STEPHANOPOULOS: If you can be convinced that you cannot defeat Donald
Trump, will you stand down?
(Full interview-One-on-one with President Biden ABC News Exclusive July 7, 2024)

President Biden defiantly rejected calls for him to withdraw from the presidential race following last week’s disastrous debate performance, insisting to supporters and prime- time television viewers that he was Democrats’ best shot to defeat Republican Donald Trump.      (Wall Street Journal July 6, 2024)

It was the worst evening of president Joe Biden’s political career. a closely contested race with two of the most unpopular candidates in US electoral history has now been interrupted by democratic party calls for Biden to withdraw his candidacy
          (newsletter dated July 1, 2024 Eurasia Group Ian Bremmer)

Rep. Adam Schiff (D-Calif.) calls on Biden to drop out of the presidential race, questioning his ability to beat Trump
(Washington Post July 17, 2024)  

New York Times Columnist Thomas Friedman penned a piece noting his long friendship
with the president but calling on him to exit the race.
(Nexstar Media Inc. June 29, 2024)

What Biden’s Exit Could Do for Democrats
(Karl Rove Wall Street Journal July 11, 2024)

2.      候補者として残る
  
   While he’s said he “isn’t going anywhere” and is committed to staying on the ticket, he has also said staff that he knows he needs to turn it around and quickly.
(newsletter dated Jul6 6, 2024 Eurasia Group Ian Bremmer)

The president has insisted he is staying in the race.
(Nexstar Media Inc. July 7, 2024)

    President Biden insists he’s staying in the White House race.
(Wall Street Journal July 11, 2024)

3.      (後継者などに)バトンを渡す。託す。
 
Schiff calls for Biden to ‘pass the torch’
CAROLINE VAKIL - 07/17/24  The Hill )

4.      失態、ミス、失態を犯す

  Biden isn’t blaming staff for any of his fumbles, which has been helpful in reducing internal
recrimination and leaks.
   (newsletter dated Jul6 6, 2024 Eurasia Group Ian Bremmer)

    The president spoke for nearly an hour, answering questions off the top of his head, making
some minor flubs but mostly seeming like a thoroughly different person than the candidate
who appeared at the debate two weeks ago.
(Wall Street Journal, July 11,2024)

President Biden’s Thursday evening press conference, hotly awaited as a potential
opportunity to once again fall on his face, didn’t offer his doubters that satisfaction.
(Wall Street Journal, July 11,2024)

5.      他の役立つ表現、語彙
  
   On Thursday he sounded more humble and said he knew he had to prove his mettle.
(Wall Street Journal, July 11,2024) (底力を見せる、気概を示す)

His own aides privately wonder how he can continue, he keeps pressing forward, and more
Democrats wonder what it will take to get him to see the writing on the wall.
(Wall Street Journal, July 11,2024) (失敗、災害の兆し、不吉な前兆)
 
On the big question that now threatens his campaign – whether he still has the stamina and
mental acuity to serve for four more years in the world’s toughest job – the 81-year-old
president offered little reassurance beyond a proud recitation of his impressive first-term
accomplishments.    (知的鋭敏さ) 
(CNN July 6, 2024)

Since his disastrous debate last month, President Biden has embraced a laundry list of left-wing policy proposals, strong-armed the party's nomination process and still tried to limit spontaneous, unscripted moments. 
     (Axios July 17, 2024) (元の意味は、ホテルなどの洗濯物記入表で、口語表現では、 細部にわたった長いリスト)

President Biden insists he’s staying in the White House race. If that doesn’t change, it’ll be    
because of his selfishness and congressional Democrats’ pusillanimity. Both have kept Mr. Biden’s deeply flawed candidacy afloat. (腰抜け、臆病)
( Wall Street Journal July 11, 2024)
(keep afloatは<沈ませないようにする>というのが元の意味で、バイデンの立候補は深刻な欠陥を抱えているが、それを沈ませないように支えてきた、という意味)


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