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クラウドファンディング体験談

 意外とカメラ・写真趣味の人は他趣味よりクラウドファンディングを利用しているような個人的な偏見がある。
 カメラバッグやストラップ、用品や各種びっくりどっきりメカ等がラインナップされていることも多いからだ。

 さて、今回はそのクラウドファンディングの体験談を紹介していきたいと思う。まず、話は数年ほど前に遡ることとなる。

 時は5年前、2017年。
 当時の私は手持ちのフィルムカメラが数台。詳しくはこちらに譲るが、ええっと、PENTAX MX、SP、KIEV II、PENTACON、SR-T101、Leica IIIfくらいだったかな。
 M42スクリューマウントレンズ用の母艦として使っていたSPを妹に取られ、PENTACONのPL NOVA Iが故障してしまってM42レンズをうまく生かせなくなった時期があった。
 M42→Kマウント変換リングなんかも使ってたのだが、精度の関係で外れなくなったりでちょっと敬遠していた。で、手頃かつどうせなら高性能のM42母艦がないか色々思案をしていたのだ。

 ある日、Twitter上でブログ記事の紹介を見つける。
「Kickstarterで新規設計のフィルムカメラを実現するプロジェクトが開始されました」という内容。
 
 ほーん、と思い軽く調べてみれば、レンズマウント基部ごとを交換することで多彩なレンズマウントに対応、シャッタースピード1/4000にフィルムバックの差し替えで撮影中のフィルム交換にも対応と。
 既にプロトタイプを使った作例などもあり、これちょっと面白そうかな?と、Kickstarterのアカウントを作って投資してみた。ポンド安だったから5万円くらいかな。
 ほんの2〜3日で450人ほどのバッカーより予定額を大幅に上回る投資があり、プロジェクトは成立となった。
 当初、コミュニティはそこそこ活発で、自動絞りには対応が難しいこと、レンズマウントの種類に関しても色々と話題が出されており、私はM42マウントの他にKマウント用のプレートを公式サイトで購入したのだ。
 発送時期はおよそ1年後くらいとのこと。まあ多少は待つが急ぐものでもあるまいし、いつ届くかわからないプレゼントくらいの感覚でいよう、と割り切っていた。

実際のロードマップ

 数ヶ月後、最初の活動報告が届く。
 「連絡が遅くなり申し訳ありません!予想以上の反響で、まずは信頼できるサプライヤーを探します」
 という内容であった。
 あー、なるほど。量産化する為に工場や材料の選定からやるんだな。まあ多分中国の工場でやるんだろうが、ま、急がないから別にいいや。

 18年6月くらいに「良さそうな工場が見つかった!届くのが多少遅れそうだがベータ版を作る見込みが出来た」

 ほー、遅れてるものの順調に進んでいるようだな。

 7月ごろ。折しもLマウントアライアンスが発表された頃となるが、Reflexプロジェクトにも新しい動きが現れた。
 それは、低価格なフィルムスキャナーや現像機、Eマウント、Lマウントのレンズを展開していくという意思表示だったのだが、おいおいそんな風呂敷広げて大丈夫なのか?その資本はどこから……
 その不安を払拭するかのように、
「ケルンで開かれるフォトキナに展示が決まった。ここで製品説明を行う」という通知が来ていた。

 

 そしてここから歯車が狂いはじめた。


 フォトキナ開幕後、バッカーのコメント欄に
「フォトキナ行ったけどどこにもいなかった」という報告が入り始める。
 フォトキナ閉幕の暫く後、チームは一つの記事を更新した。
 「台風の影響で深センから部品が届かず参加することが出来なかった」
 
ここで一つの疑念が首を擡げる。
 確かに2018年の台風の影響は凄まじかった。JRが計画運休を発表して関西国際空港にタンカーが衝突するなどの災害があった。
 しかし、それらは事前に公表出来たことではないだろうか。
 
フォトキナに参加予定だったが台風で部品が届かなかったので参加できなくなった、と開催前に公表すれば良かっただけである。

 不思議とここから開発の停滞に関する釈明が増えて来た。
「ファンディング失敗となったマイヤーや低スペックで妥協したヤシカのようにはしたくない」
「シャッターユニットが高コストになり上手く作れないから自社設計を1からやりなおす」
「香港のデモ運動の関係で……」
「コロナが……」

 流石にこの辺りになると私を含めたバッカーもイライラを募らせていたのか、リファンドを含めた開発チームへの要求を出し始める。
 何せ私達はまだCADの設計図と簡単な模型だけでプロトタイプはおろか、実際の部品や工場の様子を見てすらいないのだ。

 そして更新は3ヶ月に一度になり、半年に一度となり、コメント欄には批判の声が集まるようになってきていた。勿論私も文句を書いた。

「そもそも我々はちゃんとした設計図や部品、工場も何も見せられていない。CADによる画像データと(本当に動くものかも知れない)プロトタイプが1台だけだ。他のプロジェクトであれば進捗――それが順調でもそうでなくとも――連絡がもっと具体的かつ定期的にあるはずだ。私は自分の孫や曾孫に使わせる為に投資したのではない。自分で使うために投資をしたのだ。貴方がたには誠実さこそ求められている」

 と、大体こんな内容だ。
 そしてReflexプロジェクトは一念発起し、2020年の秋口にプロトタイプをリリースし、ニューヨークのフォトショウに出品する、と宣言し……

 

 バックれた。



 またまた現地のバッカー達による報告が為され、「どこにもいなかったよ!」
「誰かプロトタイプ届いた?」
「うんにゃ」

 ついにバッカーが大炎上してコメントやメッセージを送付するも何の音沙汰も、ピタリとなくなってしまった。
 挙句の果てには公式webサイトがドメイン失効で潰れる始末。
 あ、あのー……
 私Kマウントプレート注文してお金引き落とされてたんですけど……

 再三メッセージでどーなってんねんワレ耳の穴から指入れて奥歯ガタガタ言わしたるぞボケ、と問い合わせても何のレスポンスもない。

 約一年間な。

 で、事情を知っているスーパーバッカー(なんか超投資している人)が明かしたところ、
「プロジェクトそのものがとっくに頓挫している」
「資金も尽き現在はスタッフもいない」
「今後どうするかを公開質問状で訪ねた」

 そして約一年ぶりに公式チームからZoomによる声明が出された。

 曰く、
「投資家と決裂して資金調達が出来なくなった」
「試作品の部品そのものは作っているが開発そのものが難航している」
「2021年末までにプロジェクトの成否を再度発表したい」

 との事だったのだが……

 この声明からそろそろ一年。

 何も、連絡が、ない。


 クラウドファンディングが必ずしも成功を意味しないことは誰しも理解している。しかし、それに対して真摯に説明する義務はあるのではないか。
 恐らく、開発が難航というよりも最初のフォトキナの時点で白旗を挙げてたのかもしれない。
 普通に考えて展示を無言でバックレて閉幕後に理由を説明する必要がないからだ。

 そもそも既存の特許を回避しつつ1/4000まで実現する機械式シャッターを1から作る、というのもそんな簡単に出来れば苦労もしないだろう。
 最初から見通しが甘かったのだ。

 当初はマイヤーやヤシカのプロジェクトを馬鹿にしていたが、そんな資格ないんじゃないかな、と思う。

 今や墓場とかした紹介ページで一部のバッカーが数ヶ月に一度墓参りに訪れ愚痴っているだけの地獄のような素敵な光景となってしまっている。

 ま、そんなこんなで、流石にこのようなケースはごくごく稀だろうが、クラウドファンディングのリスクには皆さんも気をつけた方がいいと思うぞ。


 結局M42母艦はいいやつ手に入れたしもういいや、ってね。




 kaz

 



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