矯正歯科専門の歯科医院へのお願い [一般歯科より]

Xでこんなポストを拝見しました。


矯正医として著名な、ねこじ先生のポスト。

自ら矯正専門歯科医院を開業されるにあたってのポストですが…

ポイントは「矯正医も虫歯をチェックすべき」という話。


これ、確かに良心的な矯正医の先生ほど、このような勘違いをしがちな気がしたので、今回はこれについて語ることにしました。


結論:検診だけ勧めてほしい

さて、最初に結論を書いてしまうと、
一般歯科としては矯正医の先生に虫歯のチェック・診断はしてほしくないです。

じゃあどうしてほしいかというと、矯正医の先生には一般歯科に検診へ通うよう勧めてほしいんですね。


医「別の歯医者さんで検診には通われてますか?」

医「通われてないんですね。必ず通うようにした方がいいですよ。ウチは矯正専門なので、虫歯や歯周病をちゃんとチェックすることはできないんです」

医「特に矯正中は虫歯になりやすくなりますし、歯周病も悪化するので、必ず通った方がいいですよ」

こんなふうに声掛けをして頂けると理想です。


なぜ矯正医が虫歯をチェックしない方がいいのか

ではなぜ矯正医が虫歯をチェックしない方がいいのでしょうか。

それは単純に、矯正医の先生は虫歯の診断をする能力がないからです。


虫歯の診断能力を身につけるには、日頃から

疑う→確認する

を繰り返さなければいけません。

確かな診断能力を持つ先輩にダブルチェックしてもらったり、実際に切削してみたりする中で、自分にはどう見えて、正解はどうだったのか、経験を積み重ね能力を身につけていきます。


ところが矯正医の先生はこのような積み重ねがほとんどありません。
なので、虫歯を診断する能力はほぼ身につかないんですね。


当院にも、たまに矯正医の先生から
「虫歯があるので治療してください」
とお手紙が来ることがありますが、ほぼすべて誤診です。

また、「最近まで矯正専門の医院に通っていて〜」と言って、一般歯科に検診に通っていなかった患者さんのほとんどには虫歯があります

これらのことからも、矯正医の先生には虫歯を診断する能力がないことは明らかでしょう。


もちろん、これは矯正医の先生が劣っているとか、一般歯科の先生が優れているとかいう話では全くありません。
ただそれぞれが専門とする領域が違うというだけの話です。

たとえば、消化器内科の先生が、脳神経外科の手術をできるわけはないですよね?
同じお医者さんでも、専門が違えば、できることは全く違います。
歯医者さんでも同じことです。


下手に虫歯の診断をすると…

さて、「診断能力がない。だからやるな」で話は終わりなのですが、補足として「下手に虫歯の診断をするとどんな悪いことがあるのか」についても、いくつかパターンを挙げておきましょう。


1.すでに通っている一般歯科がある状況で矯正医が虫歯と診断した場合、患者さんが「一般歯科の先生が虫歯を見落とした」と勘違いし、信頼が失われるおそれがある

2.矯正医が虫歯と診断した後で、一般歯科で「虫歯ではない」と診断されると、「矯正医が誤診した」と信頼が失われるおそれがある

3.矯正医が「虫歯をチェックする」と言ったり、「これは虫歯かもしれない」と患者さんに伝えたりすることで、一般歯科に検診に通わなくてよい(虫歯は矯正の先生にチェックしてもらえる)と誤認させるおそれがある。その結果、虫歯や歯周病が悪化する


こういった問題が起きないよう、矯正専門の歯科医院では絶対に虫歯の診断はしない、一般歯科での検診を勧める、を徹底頂けるとありがたいです。


今回は以上です。


追記

こちらも良心的な矯正医の先生ほど、こうしてしまいがちということで同じお話。
一般歯科としては、矯正医の先生には決してやってほしくないことです。


前提として、正しく口腔衛生指導ができる歯科医師はどんなに多く見積もっても10,000人に1人程度しかいません。
ただしい指導がほとんど普及していないわけです。
そのような背景から、口腔衛生指導の実態は歯科医師によって大きく違うのが実態です。

つまり、複数の歯科医師・歯科医院が口腔衛生指導を行った場合、その指導内容は異なってしまい、患者さんから見ると矛盾してしまうわけです。


一般歯科の中で矯正医の先生が口腔衛生指導を行うのがNGなのは言うまでもないですし、かかりつけの一般歯科と、矯正を担っている矯正専門歯科医院が矛盾したことを言っていれば、患者さんが混乱するのは目に見えているでしょう。

そして、当たり前ですが、口腔衛生指導の役割を担っているのはかかりつけである一般歯科の歯科医院です。

矯正医の先生方は、きちんと一般歯科に仕事を任せて頂ければと思います。


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