ゆき歯科医院の衛生士教育3:セミナー等の全額費用負担
前回、前々回の記事
今回は当院の衛生士教育第3弾、完結編。
セミナー等の全額費用負担についてです。
これまでは院内の教育についてお話してきましたが、今回は院外の教育ですね。
院内教育とは異なり、診療時間が犠牲にならず費用対効果も高いので、患者さんを健康にできる衛生士を育てたいのであれば、まあどの医院も同じ方針に行きつくものと思っています。
患者さんを健康にできる衛生士を育てたい、でもセミナー費用とかどれだけ負担してあげるのがいいのか分からない、という院長先生はぜひ参考になさってください。
全額費用負担とは
衛生士が自分の意思で参加したセミナー等の費用を、医院が全額支払う仕組みです。
5,000円のセミナーに参加したら5,000円を医院がお支払い。衛生士には費用負担が発生しません。
ただし、業務として(上長からの指示があって)セミナーに参加したわけではないので、お給料はでません。
交通費も出ません。よっぽど遠くの会場で良いセミナーがあればそのときに考えますが。
費用負担の対象1:セミナー
費用負担の対象となる一番メインのものはセミナーです。
衛生士本人がセミナーを見つけてきて、院長がセミナー代を振り込むパターンが多いです。振込ができなくて当日現金で支払うとか、申込みと同時にクレジットカードで支払うような場合は、いったん本人に立て替えてもらう場合もあります。
セミナー情報は院長から教えてあげる場合もあり。参加を指示するものではなく、「こんなセミナーがあるらしいので、もし参加したい人がいたら後で言ってください」という感じです。
条件として、レポート用紙に「セミナーの内容まとめ」と、学んだことを生かして「いつから何をやるか」を書いて提出してもらいます。
提出されたレポートを院長が読んでコメント書いてまた本人に返却。
「いつから何をやるか」については、もしセミナーで学んだことが「これはマネしない方がいいな」という内容であれば、「何もしない」でも構いません。
「もうちょっとこれを勉強してから診療に取り入れたいな」という場合は、「◯◯が△△できるようになるまで練習する」とか「××についての本を読む」とかでも構いません。
なお、過去には院内に外部講師の先生を呼んでSRPの実習セミナーをしてもらったこともありますが、この場合は院長の意思として全員に参加してもらいたかったので、アポを切り、診療時間の中で(お給料を払って)セミナーに参加してもらいました。
費用負担の対象2:院内図書
院内には勉強のための書籍が置いてあり、自由に読んでいいことになっています。自宅に持ち帰りたい場合は貸出帳に記録をつけて(図書館みたいな感じですね)借りることもできます。
これらの書籍は、院長や事務長がいいと思って買ってきた本を置いていることもあれば、衛生士に「これ買ってほしい」と要望を出してもらい購入することもあります。
歯科の書籍は高額になりがちで衛生士が自分のお小遣いで買うにはちょっと躊躇することもありますし、良いものはみんなで共有した方が良いので、効率的ですね。
費用負担の対象3:学会の年会費
衛生士が入会する意義があると思っているのが日本ヘルスケア歯科学会くらいなので、今のところこの学会のみですが、学会にかかる費用も全額負担しています。
当人の技術・知識・意識の向上につながるものなので。
費用負担する理由1:意思の表明
良い理念だから人が集まる、というのは多くの場合嘘だ。
むしろ逆に、「あそこの経営者は立派なことは言うが、ビジネスや業績は平凡で、口だけだな」という嘲笑を買うのみである。
- Books&Apps『いい人を採りたければ、つべこべ言わず、給料を高くすればいいんですよ。』より -
「患者さんのことを第一に考えています」
「当院ではしっかりと教育を行います」
患者さんの健康を握るのは歯科衛生士と歯科医師。
その歯科衛生士の能力向上に投資しなかったら、「患者さんのことを考えている」とは言えません。
もちろん「教育している」とも言えません。
院長は「衛生士の能力なんて向上しなくていいし、患者さんなんてどうなっても構わない。自分が儲かればいい」と考えている、と思われてしかるべきでしょう。
そんな医院で衛生士の能力が発揮されることはありません。
費用負担する理由2:門戸の開放
セミナーの参加費用はだいたい数千円。書籍や学会の年会費だってせいぜい数千円です。ごく平均的な家庭であれば、この費用が家計に致命的な影響を与えることはないでしょう。
が、この費用を全額補助してあげるかどうかは、家庭に対して大きな差を生みます。
なぜかというと、家計に対して旦那さんの(現時点で衛生士さんはほぼ女性なので、女性だと仮定して「旦那さん」と表現しますが、男女逆でも話は同じです)意思決定がからんでいる場合、支出が少しでもあるかないかがセミナー参加の大きなハードルになってしまうからです。
例えば衛生士さんがお小遣い制だったとします。月数万円のお小遣いから昼食代や外食代、その他自分のためのものを購入していたら、セミナー代金数千円はかなり大きいですよね。
あるいはお金を使う都度、旦那さんの許可を取らなければいけない家庭の場合、旦那さんとしては「なんで給料も出ないのに、休みの時間使って、自分でお金出してまで勉強しにいかなきゃいけないの? そんなとこ辞めたら?」と言い出してもおかしくありません。
そんな環境ではセミナーに行くとはなかなか言い出しにくいです。
衛生士さんに少しでもお金を出させるということは、それが認められるような家庭環境にない衛生士を見捨てるということです。
旦那さんがどういう人なのかは、本人のやる気や能力とは別。
そういった衛生士を見捨てるということは、採用の枠を狭めるということ。つまり衛生士の質を下げ期待値を下げるということです。
逆に言うと、みんなが見捨てているそういった衛生士さんをすくい上げることで、市場に埋もれている優秀な衛生士を効率的に発掘できるといえます。
費用負担する理由3:税制面で有利
衛生士本人がセミナー等の費用を払うより、医院がセミナー等の費用を払った方が税金で得をします。
例えば1万円のセミナーに参加する場合を考えてみましょう。
医院がセミナー代を払う場合、医院から1万円のお金が減りますね。1万円損金になります。
さてこの1万円を衛生士本人が払う場合はどうなるでしょうか。
衛生士が1万円払うには、お給料の手取りが1万円必要です。お給料は受け取るときに税金や保険料が引かれますから、医院から支払うお給料は1万3,000円くらいないと手取り1万円にならないですよね。
つまり、医院から減るお金は1万3,000円。同じく損金です。
そう、お給料というプロセスを経ると余計にお金が取られちゃうんです。
明らかに医院が直接セミナー等の費用を払った方が得じゃないですか?
まあ、もちろんそこのところをごまかして従業員から搾取しようと考えるなら話は別ですね。
ただ、繰り返しますが、患者さんの健康を握るのは衛生士。その衛生士を大切にしないということは、患者さんを大切にしないということ。
患者さんを健康にする医院にしたいのであれば、医院がセミナー代を支払う一手しかないでしょう。
まとめ
・患者さんを健康にするためには衛生士を大切にし投資することが必要
・費用負担の対象は
1. セミナー
2. 院内図書
3. 学会の年会費
・費用負担する理由は
1. 意思の表明
2. 門戸の開放
3. 税制
ゆき歯科医院の衛生士教育の全体像についての説明は今回で以上です。
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