個人向け炭素排出量可視化サービスJoroの仕組み〜フリクションレスと正確性のバランス
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個人向け炭素排出量可視化サービスJoroの仕組み〜フリクションレスと正確性のバランス

何度か続いている脱炭素系のエントリですが、これまで個人向け金融サービスや、一般向けカーボンオフセットの仕組みを見てきました。今回は個人向けの炭素排出量可視化サービスを見てみたいと思います。

個人向けの炭素排出量可視化サービスとは何かというと、企業ではなく個人が自分の生活でどれだけ炭素を排出しているかを算出・可視化してくれるもので、それにより地球に優しい行動へと変えるきっかけを与えたり、実際に出した炭素分を相殺(オフセット)したり出来るものです。

同種のサービスを見渡しても、大体の構成はこのようになっています:
・自分のライフスタイル等の基本情報入力
・スコアリング → トラッキング
・日々の行動変容 → 足りない部分をオフセット購入

さて、今回取り上げるカリフォルニア州オークランド発のサービスであるJoroは、個人的にですが脱炭素分野をリサーチし始めて比較的早い段階に見つけたサービスでもあり、個人向け炭素排出量可視化サービスの代表格に思ってましたが、他にもかなり色々と出てきました。

ぱっと思いつくところで、KlimaAerialEarth HeroCarbnなどなど。。

今回は、Joroを題材にこの手のサービスがどういうふうに差別化していくのかを考察してみたいと思います。具体的には、Joroを見ていると以下のような観点の工夫が見られたので、これらを軸に仕組みを深堀りし、個人を相手にした脱炭素サービス構築に大事なことを炙り出してみたいと思います!

・行動変容につなげる工夫
・正確かつフリクションレスで排出量計算を行う工夫
・"ちゃんとした"オフセットを実現する工夫

行動変容につなげる工夫

個人向け脱炭素サービスでは、算出・可視化した自身のカーボンフットプリントに対してオフセットができる機能がよく提供されています。その中では、マネタイズを意識してかサブスクリプション型もよく見かけます。

Joroでは毎月の排出量ベースのオフセット体験を提供しています。彼らのサイトによると、定額自動で行うオフセットには、実際の排出量を反映していらず、どんな行動をしようが金銭的なインセンティブもないという問題があるとしています。その考えに基づき、Joroではカード履歴から排出量を計算しており、毎月パーソナライズドされたインパクトレポートを出します。(といいつつ、月々の排出量の平均からその値をサブスクさせる機能はあるのですが。やはりなかなか定着しないのとマネタイズの問題でしょうか。)

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正確かつフリクションレスで排出量計算を行う工夫

突然ですが、家計簿って毎回入力するのは面倒くさいですよね?

それと同じ感じで、Joroでもユーザーに求める情報インプットは、オンボード時のライフスタイル情報のサーベイと普段使いのカードとのリンクです。以降は自動で排出量が計算されるようになります。

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(特に米国では)デビット/クレジットカードは、消費者の支出を把握するには良い手段であり、Plaidなど昨今のfintechを用いることで、簡単かつセキュアに決済情報を他サービスで用いることができます。一方で、カードの決済情報は店舗単位までであり商品単位でないことが排出量計算の正確性を担保する上での課題となります。Joroではこれに対して以下の様なアプローチで対処を試みています。

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まず、排出量計算における掛け目(係数)をできるだけ正確かつスケーラブルにする仕組みを目指しています。基本的には、排出量 = 決済金額 * 係数 で計算していますが、この係数をUS Environmentally-Extended Input-Output (US EEIO) modelをベースにYale大学がCapital Inclusive Footprint Tool - United States (CIFT-US)としてツール化した仕組みを用いて形成しています。簡単に言うと、これにより405種の産業セクターにおける排出量を推定し、それらをカード決済情報に有るマーチャントカテゴリー毎に関わる産業セクターをマッピングし、加重平均させ係数を算出するというやり方です。

続いて、これらのコンディションにさらに個人のライフスタイルを加味した調整を行っています。上記のオンボード時のサーベイのように、例えば乳製品や卵を好む人は、グロッサリーの買い物においても排出量の係数を調整するようになっています。また、ガソリンや電気などのエネルギー消費も、地域の値段等を反映して計算するようになっています。

これらがJoroとして正確性を高めるべく独自に実施している仕組み部分であり、一方でスケーラブルであることも非常に興味深いところだと思います。詳細はこちらに書かれてあるので、興味ある方は見てみて下さい。

カードの決済情報からの排出量計算はCarbon InterfaceMaster Cardなども出していますが、各社チューニングが腕の見せ所なのかもしれません。

"ちゃんとした"オフセットを実現する工夫

The truth is - certifications like Gold Standard and Verra are a good starting point, but they’re nowhere near enough.

Gold StandardやVerraなどは良いスターティングポイントだが、十分では無い。それぞれのオフセットは同様では無い。なので、追加で調査・ハンドピッキングしている、とのこと。これは何故なのでしょうか?

まず、カーボンオフセットの世界においては、Gold StandardVerraなどのレジストリ(言い方は色々あるようです)と呼ばれるプレイヤーが居ます。彼らは、ボランタリー・クレジットと呼ばれる民間主導で取引されるカーボンクレジットを認定・登録・売買仲介する役割を果たしています。一方で、彼らは1 CO2 Tonneなど大きな単位での売買しかしておらず、Joroなどの個人向け炭素排出量可視化サービスや、Cloverlyなどのマーケットプレースが彼らから仕入れて小口売りをしている形です。

ボランタリー・クレジットについては、みずほ情報総研のこちらの資料が非常に分かりやすいです。要するに、今後ボランタリー・クレジットの需要が増え、供給は質が上がり、マーケットが引き締まるという私の理解です。

話を戻します。では、なぜそんな証券で言う証券取引所に上場されている銘柄のようなオフセットをJoroは更に厳選しているのでしょうか?

答えは以下の点のようです。

・脱炭素の種類のバランス
・質の高い脱炭素プロジェクトの選別

まず、下図のように脱炭素の取り組みもパターン分けすることができ、Oxford Principles for Net Zero Aligned Offsettingによると取り組むべき領域は、まずはAvoided or Reducedから中心に始めつつも、中長期的にRemovedへと意識してシフトしていくべきとの考え方が示されてます。今日のカーボンオフセットの多くはAvoided or Reducedであり、それでは京都議定書の目標を達成するには不十分であると、JoroではRemovalに注目してプロジェクトをセレクトしているようです。

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また、カーボンクレジットのマーケットはまだレギュレーションも整っておらず、品質や管理が行き届いていないプロジェクトも多いようです。したがって、このGold StandardやVCSでリストされているものは最低限として、そこからヒアリング等を行って品質を担保したものを選んでいます。

オフセットクレジットの仕入れ先として以下のようなものが挙げられています。ここで興味深いのは、オフセットクレジット各社で取り組み領域に特徴があったりすることです。

・Charm(バイオオイル・地下貯蔵)
・Nori(環境再生型農業)
・Pachama(森林保護・再生)
・Running Tide(海藻)
・NCX(森林保護・再生)
・Grassroots Carbon(環境再生型農業)

このようにして、オフセットのプロジェクトをJoroで独自に選び、ポートフォリオを組むようなアプローチをとっています。現状、カーボンクレジットの金額はプロジェクト毎に異なり、結果Joroのポートフォリオの現在のコストは$25 / tonとなっており、そのうちの17%をフィーとして得るビジネスになっています。

Joroの記述によると、MicrosoftやShopifyなども、企業としてボランタリー・クレジットを活用したオフセットをやっていますが、こういう同様の考えで選別を行なっており、結果として同じプロジェクトを支援していたりするようです。つまり、ボランタリー・クレジットの活用は、今のところはGold StandardやVCS等だけでなく、更に何某か選別してポートフォリオを組まないと使えない状況と言えるのかもしれません。

まとめ

いかがでしたでしょうか?これまで見てきたように、カード情報は連携することができれば非常にユーザーにとってはフリクションレスであり、なおかつ生活に密着した支出情報を得ることができます。一方で、カード情報の限界は店舗単位までであることであり、商品単位での情報は得られません。炭素排出量の計算においてはその差は大きいと思います。Joroではそこをできるだけユーザー体験に影響を与えず、個人のライフスタイルに合わせて精度高く計算するように工夫が施されています。また、オフセットにおいても、その質の担保やユーザーの行動変容を促すために工夫がなされています。

一方で、これが皆使い続けるのものになっているでしょうか?実は私個人や周りを見ていると、なかなか継続して使うに至っていないようにも感じられるところです。使い続けさせるには何が必要なのでしょうか?この辺りは非常に興味深いところなので、是非議論を重ねて、色々なアイデアを出していきたいところです。

DISではこうした脱炭素サービスの仕組みを解明し、エンジニアリング面として様々なサービスを簡単に開発できるように研究を進めると共に、外部企業と共にあるべきユーザー体験を考え・実装する取り組みを進めています。ご関心のある方はinfo@dentsu-innovations.comへご連絡下さい。

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サンフランシスコ・ベイエリア在住。Dentsu Innovation Studio Inc. COO。日系SIer米国法人VPを経て、現地にて事業売却・新会社設立。エンジニア→ミシガン大学MBA。技術と経営の両立を目指しています。