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テスラをハックしてみた - 米国のオープンイノベーションとそのコミュニティ

米国は12/24から1/2にかけて全体的に休暇モードです。少し時間にゆとりができたので、流行りのEVで遊んでみました。

できたものがこちら(音量注意):

テスラは毎年のトラディションなのか、年末ごろに大幅な機能アップデートを出しています。いわゆるOTA(Over the Air)で、ディーラー等に持ち込むことなく、ネットさえ繋がっていたらアップデートができます。

今回のアップデートはツッコミ満載でした。車として走ることに必要なことというより、かなりエンタメ寄りであり、尚且つハッカーコミュニティが喜びそうなものでした。

 これの狙いはなんでしょう?
 そして、どうしてこんなことができるのでしょうか?

これら気づきも含め、日本に先駆けてリリースされた米国より、少し早めにご紹介したいと思います。

1. アップデート内容

Teslaからのアップデート内容は、同社のTwitterからカジュアルに次のようにアナウンスされています。

まず、ディスプレイの見た目が大きく変わり、ワイパーやエアコンといった咄嗟に必要となる機能のコントロールさえもが、最初はわからないぐらいでした(笑)。この時点で車としてどうよと賛否両論あると思いますが、ここまで思い切ってくるのは流石です。

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続いて、搭載ゲームが増えました。これまでもレースやインベーターゲーム系・カードゲームなど数多くあり、充電中やロングドライブ時の子供の暇つぶしなどに役立ちました。今回はそれにソニックザヘッジホッグが加わりました。つまり、自動車会社がゲーム会社がパートナーシップであるということです。こういう世界ってこれまで有ったでしょうか?

そして最後にご紹介するのがこれ、車のライトやウインドウ(+充電ポートも開くw)でライトショー/ダンスができ、尚且つそれを自分で創ることができるようになりました!要るのかこれは!?笑

このようにいずれも運転には全く必要のないものなのですが、ユーザーにとってアップデートの目玉でした。他にもディスプレイ表示が変わっているので、エンタメ系またはエクスペリエンス系にかなり振ったアップデートだといえます。この背景は考えさせられます。自動運転系で真新しいアップデートが無いからなのか、あるいは、トヨタを始め自動車大手がEVを本格的に量産してくる前に、テスラらしいポジショニングを確固たるものとすることを狙ったものなのでしょうか。

この特に後者について、次の章で少し見ていきたいと思います。

2. テスラのハッカーコミュニティ

※ここでいうハッカーとは、悪さをする人たちではなく、テクノロジーや仕組みに通じて、より楽しみを見出す人たちのことを指しています

今回のアップデートで、上記のライトショーを実装して楽しむには、Githubにアクセスしてリソースをダウンロードしドキュメントを読んでやる必要があります。

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同社はこうしてGithubアカウントを持っており、今回のライトショーを含めて、たくさんのユーザーが利用し、フィードバックも行われています。

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特にやりとりを見ていると、どれがテスラの中の人の回答かはわからないぐらいで、一般ユーザー同士でも教え合ったりコメントして、活発に問題解決がなされています。

また、今回のこのライトショーを実装するには、xLightsというsmeighanさんというコロラドに住んでる方が開発しているツールを用いて行います。車のオフィシャルの機能が、こうして3rd partyのものを利用して(依存して)実現されるって、考えてみるとすごいことではないでしょうか。

このように、テスラの周辺には多くの3rd partyコミュニティが存在し、テスラ車を持つという体験に影響を及しています。例えば、このTeslaPyは自分のPCから自分のテスラ車へアクセスするライブラリを提供しています。想像するに、テスラモバイルアプリからクラウド経由でテスラ車にアクセスするコマンドを、アプリに変わり発行・送信する仕組みをハックしてunofficialに作っています。

A Python implementation based on unofficial documentation of the client side interface to the Tesla Motors Owner API, which provides functionality to monitor and control Tesla products remotely.

ここでもコミュニティが活発にやりとりが繰り広げられており、例えば9月にテスラのクラウド側の認証においてreCAPTCHAが導入され、このTeslaPy含め他の同様の3rd partyツールからの認証が弾かれるようになったのですが、皆が協力して数日で解決されました。以下はディスカッションのスレですが、TeslaPy開発者のtdorssersさんに皆が協力しています。

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こういったエコシステムやコミュニティがあり、テスラでは公式のアプリなど以外にも、実際にテスラ車と繋がりデータを活用したツールなどが出てきており(以下例)、結果として様々なエクスペリエンスのオプションをユーザーに提供されることにつながっている訳です。

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3. 企業のオープンイノベーションとは

上述で見てきたように、テスラでは独特かつ強いエコシステムとコミュニティがあり、それが同社の車ならではのエクスペリエンスを形作っているように思います。今回のエンタメに強く振ったアップデートも、一見ふざけたように見えつつも、コミュニティにはたまらないものだったのでは無いでしょうか。

確かに、難しいところはあると思います。上記で紹介したライトショー機能も、xLightというツールが無くなったり不具合出たらどうするのだ?とか、TeslaPyも3rd partyの認証ハックを利用している以上グレーな話でもありますし、その結果事故につながった際はどうするのだ?という議論などもあるでしょう。実際、私もTeslaPyのサンプルコードを実行した際(以下)、フロントのトランクが開くコマンドが入っていたことをちゃんと見ておらず、もしそのまま運転してたら危ないところでした。(実際は運転前にアラートが出るので大丈夫ですが。)

import teslapy
with teslapy.Tesla('elon@tesla.com') as tesla:
	vehicles = tesla.vehicle_list()
	vehicles[0].sync_wake_up()
	vehicles[0].command('ACTUATE_TRUNK', which_trunk='front')
	print(vehicles[0].get_vehicle_data()['vehicle_state']['car_version'])

このように色々とリスクは付き纏うところはありますが、オープンイノベーションがビジネスを牽引するインパクトは見過ごせません。本来はそれを期待して、各企業がオープンイノベーションを進めており、日本企業もここシリコンバレーに進出してきているのではないでしょうか。

また、こうした動きを見ていると、オープンイノベーションにも度合いがあるようにも考えられます。外と対話を活発に進め、コンポーネント単位でパートナーシップを結ぶような管理できるレベルのものもあれば、今回ご紹介したように企業が管理できない/しないレベルのものもあります。コミュニティとして育てるには、そこまで行く必要があるのでしょう。

年内最後の投稿になりましたが、DISでも今年は米国テクノロジーなどを用いて、顧客やグループと共にプロダクト開発に取り組んで参りました。その過程では、利用テクノロジーのコミュニティに要望や不具合のフィードバックを提供したりしています。2022年以降もこうしてコミュニティに積極的に参加し、オープンイノベーションに取り組んでいきたいと思います。


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