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吉尾海夏の復帰と山田康太の移籍

多くの若手をレンタルに出す意味

ともにユースで10番を背負い、トップチームの主力となることを期待されながら、ここ数年J2で武者修行をしていた吉尾海夏選手と山田康太選手の去就が発表されました。両者は2021年のJ2リーグでチームの中心として活躍。吉尾選手は町田ゼルビアで39試合に出場して10得点、10アシスト、山田選手はモンテディオ山形で42試合に出場して8得点、6アシスト。どちらもJ2は卒業という成績を残しました。

シティ体制となってからのマリノスは10代から20代前半の若手は、よほどの即戦力ではない限り下位のカテゴリーへとレンタルに出して、試合経験を積ませるという形の育成をしています。実際、2021年シーズンは17名もの選手がレンタル移籍しています(内1名は出場機会を求めた伊藤槙人選手)。

このやり方について「自分のチームで育成しろ」という声もありますが、トップチームの一番の目的はタイトルを獲ることです。若手に試合経験を積ませながらそれができれば最高ですが、現実的にベンチ入りメンバーに入れる若手は1〜2名が精一杯でしょう。だとしたら、素材を腐らせるよりも、2〜3年は試合に出られるレンタル先を探して活躍の場を与える。むしろ、すごく選手の成長を考えた育成方法だと言えるでしょう。そもそも選手側も学生ではなくプロなのだから「育ててください」の精神ではダメ。外に出て自分で育つくらいの選手でなければ、マリノスで自分の地位をつかむことなんてできません。

そしてトップチームの戦力になると判断した若手をチームに戻す。高卒の選手であれば3年レンタルに出していても、大卒ルーキーよりは若くチームに戻ってくることになります。そうやってチームを新陳代謝させていく。このやり方はまだスタートして数年であり、本当に成果が出てくるのは、もう少し先のことになると思います。

吉尾選手、山田選手が選んだ道

J2で確かな結果を残し、成長を示した吉尾選手と山田選手には、マリノスは2022年シーズンの戦力として復帰を要請したはずです。そのなかで吉尾選手はマリノスでレギュラー獲りを狙う道を選び、山田選手は山形に完全移籍してJ1昇格を目指す道を選びました。正直に言うと、逆の選択になるかなと思っていました。レンタル先のチームとのシステムの違いから、吉尾選手よりも山田選手のほうが現在のマリノスにハマりやすいと考えていたからです。

おそらく同じことを思っていたサポーターの方も多いと思います。山田選手が自らの意思で山形への移籍を決断したことを嘆く声も多く聞こえてきました。もちろん、私も非常に残念に思っていますが、日本サッカー界全体を考えると、これはこれでアリだと思っています。

せっかくJ1でも戦力になるところまで力をつけた山田選手を失うのは、マリノスとしては痛手です。しかし、山田選手はレンタルに出さなければ、ここまでの力をつけることはなかった(マリノスで出番を得られなかった)ことが予想され、選手としての成長機会を奪ってしまった恐れがあります。だとしたら、たとえ違うチームに行くことになったとはいえ、選手育成自体は成功です。有望な選手を手元に置いて腐らせるよりは、よっぽど有意義だと私は考えています。

山田選手は今マリノスに戻るよりも、山形で中心選手としてプレーすることがさらなる成長につながると判断し、自分で自分の道を切り拓いていく道を選択したわけです。水沼宏太選手がいろいろなチームを渡り歩いて成長し、マリノスに強く求められて帰還したように、山田選手も“プリンス”ではなく、“キング”として何年か後に帰ってくることも考えられます。本人もマリノスに帰るならレギュラー争いではなく、中心選手の力をつけてからと思っているのではないでしょうか。もっともっと成長して、代表にも入るくらいの力をつけて、いつかトリコロールのユニフォームを着てほしいと思っています。


一方、マリノスへの復帰を選んだ吉尾選手へは期待しかありません。システム的に4-3-3のトップ下に入ることになると思いますが、ここには攻撃の中心であり、19年の得点王であるマルコス・ジュニオール選手が君臨。さらにユース出身の先輩で同じレフティの天野純選手、期待の若手でドリブルが武器の樺山諒之介選手がいます。J1でももっとも過酷なポジション争いが待っていることがわかった上での復帰ですから、それだけの自信と覚悟があるということ。まだまだ伸びしろも十分で、期待するなというのが無理な話です。

また、吉尾選手がチームの中心となっていくことは、シティ式育成の成功体験ともなり、若手レンタル選手のモチベーションアップにもつながることになります。2022年シーズンもレンタルが決まった椿直起選手は「結果を残して帰ってきたい」と言葉を残し、白坂楓馬選手は「鹿児島で力をつけて横浜に帰るために闘ってきます」とコメント。マリノスでプレーするために結果を残したいと考える若い力も見守っていきたいです。

復帰を選んだ吉尾選手と移籍を決断した山田選手。どちらも間違いではありません。だからこそ、両選手にとって、2022年シーズンが最高のシーズンとなることを期待しましょう。

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