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おばあちゃんの味噌おにぎり

「おにぎりの具、何が好き?」と聞かれたら、私は鮭でも梅干しでもタラコでもなく、味噌…おばあちゃんの味噌おにぎり!と答える。

おばあちゃんの味噌おにぎりは絶品で、思い出すに、ただの味噌ではない。味噌の中には干しエビやら竹の子らしいモノやら…兎に角色々なものが入っていて、少し甘辛く、それはもうご飯にぴったりの味なのだ。それが塩気の利いたおにぎりに入っているのだから美味しくないわけがない。

小学生だったある日の遠足のことだ。お昼の時間、恒例の担任の先生のおにぎり交換が始まった。その日は私のおにぎりとひとつ交換した。一口食べて、「ん!うまいなぁ。これはなんだ?」と言ったが最後、一緒に食べていた子達によって、残りの3つあった小さめのおにぎりは様々な形のおにぎりに変わってしまった。その日から、何かというと「あのおにぎり美味しかったなぁ」と先生に声をかけられた。そして、お弁当のある行事の時には先生が自分のおにぎりを握りしめてやってくるようになった。少し年老いていた先生のお口に余程合ったのだろう…。

もう一度あのおにぎりを食べたい。

おばあちゃんは、料理が得意ではなかった。お店を営んでいたこともあり、娘5人を産んだおばあちゃんは、ご飯当番と称して、順繰りに娘たちに作らせていたらしい。一番末っ子娘の母はそうしているうちに料理を覚えたと言う。そのうち、自分で料理本を読んでは作ってみたりしたそうで。「おばあちゃんからたいそうな料理を教わったことないなぁ」と言う。いやいやいやいや~。たいそうな料理はいいから、あの味噌のレシピは教えてもらっといたら良かったのに…。本気で思う。誰もあの味噌のレシピを知らないのだ。おばあちゃんがあの味噌を作る時、朝早く市場に出かけ材料を仕入れたら、こっそりじっくり作っていたのだ。おばあちゃんが晩年料理したのは唯一、この味噌を作る時だけだった。

何度か思い出しながら作ってみたことがあるのだが、成功したことがない。食べられないと思うと無性に食べたくなるものだ。また、チャレンジしてみるかな。

母の味もまた、いつか懐かしくなる時が来るのだろう。その前に、聞いとくべきレシピ、今のうちに教えてもらおう。

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