最初で最後のバレンタイン
エレキギターが飛びぬけて上手く、射手座の子を好きになった中学一年生の私。バレンタインの記憶は、彼にあげたチョコレートでその後更新されていない。
よせばいいのに、バレンタインにチョコを渡す偉業に挑戦した。乙女らしいことにはとんと疎い私が、そんなことに挑戦したのは、友の為でもあった。乙女らしいことが得意なちょっとオマセな友人に、意中の人に渡したいけど、ひとりでは恥ずかしいから一緒に渡して!とお願いされたからである。私達の想い人は仲が良かったからだ。それにしても、手作りでなくとも良かったのに、わざわざ手作りに挑戦したのだった。
最初から、チョイスが悪かった。ただ溶かし、型に流し固めるだけのチョコにすれば良かったものを、よりによってトリュフを選んでしまったのだ。なぜ、トリュフだったか?フッ。自分が食べたかったからだ。そこは、いかに簡単に出来るかを考えるべきだった。
いそいそと材料を揃えた。普段、乙女らしいことをしない私がチョコレートを作り出した姿を両親は不思議そうに、そして訝しげに、そして心配そうに窺がっていた。その気配を感じつつ、材料を無駄にしてはいかん!という自分の声、そして、やったことないのにやりはじめてしまった不安が徐々に増していく。チョコを溶かし生クリームと混ぜた。冷蔵庫で冷やし固めて丸い形にした。
丸くしている時点で違和感はあった。
「固くない?」
そう。固かったのだ。いや。冷やされたから?
そのレシピは、簡単バージョンではなく、一度チョコでコーティングするひと手間多いバージョンだったのにも関わらず、コーティング用のチョコも一緒に溶かしていたのだった。その分チョコ率が多くなり固くなってしまったということである。
「ダークチョコレートにさっとくぐらせ…」という文字を目にして初めて、そのチョコが無いことに初めて気づいた。ちゃんと読んだつもりで読めていない。テンパるとはこういうことである。仕方なく、その工程を飛ばして、粉糖をふりかけて一見トリュフが出来上がった。
もう、トリュフとは呼べない、粉糖のかかったカチンコチンのチョコが仕上がったのだ。ガラスの小瓶に入れてラッピングした。
そして、想い人に「ちょっと失敗して固いけど…」と渡した。
翌日、想い人は、
「うまかったで。」
そう言われてホッとした。と、その直後、
「ホンマにめちゃめちゃ固かったけどな。なんか…鹿のフンみたいやった。」
ギャーン!!!
鹿のフン…うまいこというたなぁ。確かに確かにその通り。
すごい笑われて、自分でも可笑しくなって二人でお腹抱えて笑った。
あれ以来、手作りチョコは作っていない。
あれ以来、慣れないことはせんことだ!と思っている。
あれ以来、最初は絶対失敗するものだ!と思っている。
あれ以来、焦るとろくなことはないと肝に銘じている。
あの射手座の彼はいい子だった。
あの射手座の彼はやさしかった。
だってあの時、あんなチョコを渡した私を好きだって言ってくれたから。
彼の後、想い人にバレンタインのチョコを渡したことはあったけど、この時ほど頑張って、ドキドキして渡したことはない。
わたしにとって、バレンタインの記憶はこのひとつしかない。
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