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アメリカンユートピア

Facebook 2021年6月5日投稿分〜

僕にとってトーキング・ヘッズは常にCuriousな存在。

スノービッシュな雰囲気を醸し出しつつ根底はパンク。アフロビートやファンクのエレメンツも含んだ独自の世界観を持つサウンドとアーティスティックなミュージックビデオの数々はMTVでヘビーローテーションとなりブレイクした80年代を代表するロックバンド。

ファンでもないし、興味のあるジャンルでもないのだけど、何故か気になるグループ。そんな印象。

この映画はそのトーキングヘッズのリーダーであったデイビットの2018年に出した”アメリカンユートピア”のアルバム発売ツアーが原型。彼は2019年にこのツアーの内容をブロードウェイの舞台に再構成。人気の公演となり、デイヴィッドはスパイク・リーに映像化を依頼。

デイヴィッドは元々、NYのアートカレッジの学生時代からパフォーマンスアートや寸劇とロックの融合を試みていて、この作品はいわば彼の音楽活動の集大成といっても良い作品となった。

何もないシンプルな舞台に、同じ衣装をまとい多様性なルーツを持ったミュージシャンがいるだけの構成。アンプや据え置きの楽器を排除しケーブルに繋がれずに自由にステージを縦横無尽に駆け巡る圧巻のパフォーマンスの様子がスパイク・リーのカメラに収められた。

生身の人間以外を排除したステージセットに込められた意味。

広大な人間の脳のファンクションを説明しつつ、人は子供から大人になる過程で必要ない脳の回路を閉じていく、と歌うデイビット。一方で人は結局モノではなく直視している対象は人間そのものなのだと説く。

地方の投票率が20%でその平均年齢が57歳であることをダシに「若者よ。ご愁傷さま」とシニカルに語り、ジャネール・モネイが2015年に発表した「Hell You Talmbout」のカバーではSay his/her name?という問い掛けに白人警察官の暴行被害者の写真と共に彼らの名前を続々と歌い上げ、社会が抱える問題について関心を煽る。

モノが溢れる世の中。社会に対する無関心に対してもっと人とのつながり(回路)を広げよう、キャパシティはある筈、と彼がステージを通じて説く言葉は結果、脳の可能性を論じた1曲目のHereの歌詞に回帰していく。

彼の音楽を知らずとも充分に楽しめるし、本人が伝えたかったメッセージに沿って過去のトーキングヘッズのヒット曲をも取り入れた構成は大変良く練られたものだ。

『この国でこれまでになかったことをできると私は信じているのです』

この言葉の実現こそがアメリカンユートピア。

黒人作家ジェームス・ボルドウィンのこの言葉の後に歌われる”One Fine Day”。すべてのミュージシャンが楽器を置いてアカペラで歌うパフォーマンスは圧巻。

UEFAのファイナルのプレゲームショーにおけるMashmellowのVRを駆使した圧巻のショーとは一見、対極にある様にも思えるが本質的には同じベクトル上のもの。スポーツのハーフタイムのようなギミック過多の演出モノにも今後、転用出来るであろうヒントが詰まっている。

スポーツを含む全てのパフォーミングアーツに関わる人にとってMust See Movie。至福。

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