息子が私を警察に通報した夜のこと。
<目次>
あの日私はくたくたで…
そして通報。
おまわりさん来る。
おまわりさんが帰って私がしたことは…
私は子どもの逃げ道を作っておきたい。
あの日私はくたくたで…
下の息子が4年生だったかなあ、5年生だったかなあ。
息子が警察に電話して、私を通報した時があった。
その日はもう…へとへとで、くたくたで…それなのに作っている夕ご飯に文句言われたのかなあ。息子の何かのひとことで私はぷっちん、してしまって、口をきかなくなってしまったのだ。
「かっかちゃん、これは?」「シーン…」
「ねえ、かっかちゃん?」「シーン…」
繰り返しやってきて料理中の私を揺さぶって、彼はかなり必死だった。でも私も彼が必死になればなるほど、意固地になった。意地でも答えるもんか、口などきいてやるもんか。私は怒っているんだ。
そして通報。
最後には涙目になって、彼も口をきかなくなった。
向こうの部屋へ行って、上の息子と末っ子娘に「かっかちゃん、しゃべってくれない、無視する」と言っているのが聞こえる。私は黙々と夕ご飯を作る。手元はかなり荒っぽい。
やがて、部屋でなにやら騒ぎが起こる。「おい、やめなって!」「それはちょっと!」とやっている。「だって、無視するんだもん!!」と下の息子の怒り狂った声。
そして電話をかける音。
部屋から逃げ出してきた上の息子が、「かっかちゃん、あいつ警察に電話かけてる!」と報告してくる。「ふうん」「知らないからね!」そりゃ、私だって知りませんて。
おまわりさん来る。
20分くらい経って、家の前にバイクが止まる音。ピンポンがなる。私は無視。下の息子が出る。上の息子はすっかりビビッて別の部屋で縮こまっていて、末っ子娘は一緒に玄関にいるらしい。
低い声で話し声が続く。
やがて「おかあさーん!」とおまわりさんに呼ばれたので私は手を拭きながら出て行った。
「息子さんが、お母さんが口をきいてくれない、無視すると電話をかけてきましたのでお邪魔しました~」とおまわりさんが切り出す。「わざわざ夜分にありがとうございます」と私。
下の息子は玄関の隅でいくぶんほぐれながらも硬い表情。末っ子娘はハラハラ見守る。
なにを話したか、具体的なことはもう忘れてしまったけれど、おまわりさんが息子に「お母さんにもたいへんな時があるんだよ。お互いさまじゃないかなあ?」と言っていた気がする。
私はもっと叱られると思って出て行ったんだけど(叱られても仕方ないと思っていたので)、あまり責めるようなことは言われず。「遅くまでありがとうございます。いえ、来てくださって助かりました」と送り出した。
おまわりさんが帰って私がしたことは…
さあて、おまわりさんが帰って、私がいの一番にしたことはなにか?
「○○(下の息子)、おいで」と呼んで、ちょろりちょろりと寄ってきた息子をがばりと抱っこ。「えらいねー!自分で電話したの?よくできました!」とほめた。
これは嘘じゃない。私は全力で息子をほめた。
私は来てくださったおまわりさんにも息子の訴えを信じてきてくれてほんとうにありがたいと思ったし、通報を受けた警察署の対応にもほんとうに感謝した。
どうして?
ほんとうに私が子どもたちにつらいことをした時に、子どもたちの話をちゃんと聞いてくれるところがひとつ、ちゃんとわかった!ということが嬉しかったのだ。
そして、ちゃんと助けを求めることができた息子。つらいよ!いやだよ!苦しいよ!と言えることはすごいこと。さらに、ちゃんと助けてくれるひとにたどり着けるのは、運もあるし、本人の思いを伝える力でもある。
あ、もちろん、ちゃんと息子に「無視してごめんなさい」も言った。「でもね、あなたのひとこともつらかったんだ。もちろんだからって無視するのは卑怯だよね」
おまわりさんが来てくれたことで、ほぐれたのは息子の表情だけではなかった。こんなことをしてはいけない、と思っても、やってしまうことはある。だからといって許されるなんて思っていない。時間が経てば子どもに与えた傷が癒えるとも思っていない。
それでも子どもに対して許されない罪を積み重ねていくのが親だ。でも親だって未熟なんだ、親だって人間なんだというのは逃げ口上でしかない。未熟だろうが人間だろうが、親は子どもにとって最高権力者。生殺与奪を握っている。
私は子どもの逃げ道を作っておきたい。
私は私が間違いを犯した時のために、子どもたちにいろんな窓口の話をしている。学校でいじめの電話相談窓口の紹介をもらってきたら、「かよちゃんがひどいこと言ったら、ここに電話かけていいんだからね?」
法務省の手紙、いのちの電話、生活アンケート、市の青少年相談、110番、児童相談所…もちろん、学校の担任の先生に伝えてよいことも話してある。それがこの日実を結んだ。
親の過ちが一番外部には隠される。見えにくい。だから、私は子どもたちの逃げ道を教えている。許さなくていいんだよ。でもひとりで戦わなくていいんだよ。助けてくれるひとがいるよ。諦めないで。
私はあの日の私が最悪最低の親だったことを、忘れない。
だから、私を警察に通報した息子を誇りに思う。息子を信じて関わってくれた方々には感謝を。
これは失敗談でもあり、成功譚でもある。
なににせよ、ああ、恥ずかしい…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?