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未消化な過去の記憶は、解決を望んでいる⑤ 聖人!?

一通のメールから、20年前に別れた元夫の秘密を知ることになった。↓

元夫に出会ったとき、これまでの私の周りには無いタイプだと思った。

その不思議なアンバランスさに、私は魅力を感じたのだった。
性格が優しすぎて事業に向いていなさそうだけど、事業が好きなところ。
お金に全くと言っていいほど執着がないけど、事業家になるために経理の専門学校を出ているところ。
精神性を重視するわりには、高級車に乗っていいて、謎な感じがするところ。
彼は事業家だけど、本質は事業家ではなかった。

夫は従業員4人の小さな会社をやっていた。
飲食店の企画、設計施工、コンサル業をやっていて、施工を任せている多くの下請けの職人さん達もいた。

店舗設計士だった夫は、お金の無い人には「出世払いでいいよ」と言って店舗のデザイン料をただにしてあげていた。
一度関わった店舗には経営コンサルまでやっていたが、夫のことだからコンサル料は取ってなかったかもしれない。

それだからというか、世話をした相手方は右肩上がりで伸びていくけど、夫の会社の業績は横ばい状態が続いていた。
「人にばっかり儲けさせて、自分は儲けない」
彼を知る人は、そう言っていた。 

彼はヒーラーで救済者のような不思議な存在感のある人だった。
「まるで聖フランシスコみたい」
私の友達は口を揃えて言ったものだった。

彼は、よくあるオジサンとは違っていた。
映画「ブラザーサン  シスタームーン」で見た聖フランシスコに似ていた。
聖フランシスコのごとく、蝶を追い、花を見る人だった。

御所の雪景色に見とれて会社の新年の挨拶に遅れてしまう社長だった夫。
「だって雪景色がきれいだから」
呆れる社員に悪びれもせず報告する子供のような夫。

「日本海の夜明けを見に行こう」
夜中に起こされて、眠い目を擦りながら夫の運転する車の助手席に滑り込み、夜が開けるまでもう一度眠りに着いた幸せな日々。

美しいものに対する感性を全開にして隠そうともしなかった。

小さく弱い者を保護したいという願望も強かった。
幼い子供を形容して「めだか」と愛情を込めて呼び、「保育園の園長になりたい」夢も持っていた。

実際に彼は多くの人を助けた。
しかも見返りは無くても、ただ与えるだけで満足なのだった。聖人か?

夫の周りには、ただで何かして貰おうとする図々しいだけの人もいた。
弱い人は感謝ができない。
感謝ができるのは強い人だけである。
私は「気をつけてね」と注意したのだけど、
彼はそういう人たちの「狡さを分かっている」と言いながら、「利用されていてもいいんだ」と言って取り合わなかった。
そのとき事業で負債を抱えていたのに。

夢見がちで浮世離れをした夫。
彼のような人は、物質世界とバランスを取ることは出来ないだろうし、出来なくても構わないのだろう。

彼の周りには困っている人が次々現れた。 
彼は困っている人が来るのを、無意識に待ち望んでいたかもしれない。
彼の前に現れた私もその一人だったかもしれない。
夫と出会うことによって癒やされ助けられたのだから、感謝している。

しかし、人を癒やすことで一番癒やされていたのは彼自身だったかもしれない。

それにしても。
事業を通して人を救済するのがミッションなら、もっと他のやり方が有っただろうに。
現実と折り合いがつけられなかったのが、なんとも彼らしい…

聖人だもの。


続きます。



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