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未消化な過去の記憶は、解決を望んでいる③ 癒やし人

「その後、どうされていますか?
気になっています
差し支えなければ、連絡ください」

一通のメールから、20年前に別れた元夫の秘密を知ることになった。

ゆ                              ✱

とにかく、あんな人を後にも先にも知らない。

元夫は、人の心を操ることに非常に長けた人だった。夢を語るのがうまくて人をケアするのもうまい癒やし人でもあった。

被害を訴えた知人も、彼と結婚した私も、一番はじめは彼に魅了されたには違いない。

夫と一緒にいると、安心感に包まれ、傷ついた自己愛が修復していくような気がした。
世界は優しく美しく、私は祝福されて守られているのだと信じることができた。
私は彼の前でよく涙ぐんだ。
皆んな彼に心を許してしまうのだった。

思い出したことがある。
夫と付き合い始めた頃、こんな事があった。
新聞社時代から付き合いの老舗菓子屋の奥さんと社長に、夫を紹介したときのこと。
4人で和やかに歓談しているとき、社長はつい悩みを夫に話した。
「借金とは切れたことがありません」 
と三代目の苦労を漏らすと、夫は
「いまどき借金のない人はいませんよ」
と優しく受け答えをした。
企業の社長が初対面の人に弱みを言うだろうか?
夫は人の心を開かせるのが巧かった。

皆んな夫に心を許してしまう。
知人は夫を「詐欺師だ」と言ったが、そうかも知れない。

今回、20年ぶりに連絡をとった知人から、私の全く知らなかった夫の話を聞かされた。
知人は夫の口車に乗せられて、色々やらされて、気がついたら彼は何処かへ消えてしまって、お金を払ってもらえなかったそうだ。
そんな被害に遭った人を複数名、知っている、と知人は話した。
被害に遭った人は、みんな知人の仕事の関係者だった、と言う。

私は頭がくらくらした。
確かに夫はそんなところはあった。 
熱しやすくて冷めやすい。
いっとき熱中して夢中になるが、暫くすると興味が無くなって見向きもしなくなる。
そんなことを繰り返しては、周りを巻き込んで迷惑をかけることがよくあった。
しかも神出鬼没で、何処かへ雲隠れする。

夫について行けない周りの人は一人、カオスの中に取り残されるのだ。
しかも支払いを踏み倒していたとは、全く知らなかった。

私も夫と一緒にいた9年間はカオスだった。
この頃の私は、夫のことに巻き込まれて、完全に自分を見失っていた。

私は機能不全家庭に育ったために、フツウが分からなかった。フツウの家族、フツウの夫婦、フツウの人間関係…。フツウを体験していなかったから、その頃の私は、何がフツウのことか全く分からなかった。
フツウでない夫との生活に混乱しながら、どっぷり浸かっていた。

しかし転機が訪れた。

そのころ飛び込んだ心理療法の世界で、私は徹底的に自分と向き合うことになった。
そして、夫との関係を居心地悪く感じている自分に、もうこれ以上嘘をつくことが出来なくなっていた。

やっと夫との関係を精算する気になった。

その時の私に出来たことは、前だけを見て、壊れてしまった自分の生活を建て直すしかなかった。


話は続きます


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