仕事と趣味と音楽と
先日、依頼演奏の現場で一緒だったヴァイオリン奏者の方が言っていたこと。
「好きで弾いているわけじゃない。だって仕事だもん」
私たち演奏家は時に、"好きを仕事にしている"と無条件に思われていることがあって
「趣味と実益を兼ねられていいですね」とか、「好きなことでお金がもらえてすごいね」などと賛辞?を頂いたりする。
「生活のためにやりたくもない仕事をして、毎日辛い」ということを言っているのではない。
仕事だから
責任もあるし、お金もいただく。
業務内容が、たまたま楽器を演奏するということなだけで、何かを売ったり、誰かと交渉したりするのと同じなのだ。
そこにはただ、個人の選択があって、あとは適正と実力があるだけ。他の仕事となんら変わりない。
だから、先述のような捉え方は、時に遺憾であるという
そういう話。
Doctor Xの大門先生は、特技:手術 趣味:手術
っていう設定だったけど、それって、"そんな事あるわけない"ていうお医者さんに対する世間一般のイメージがあるから意表をつく設定として成立しているわけで、
演奏家は
特技:楽器演奏 趣味:楽器演奏
が当然だと思われているということになる。
いやそんなわけあるかい!
という話。
かくいう私は、演奏することは生きていく術であるし、生業であり、音楽は人生を賭けるに値する唯一のことであり、更に楽器のことも大好きである。
が、趣味ではない。私がもし、事務職に就く会社員だったとして、趣味で楽器演奏をすることは無い。絶対に無い。だから、仕事になっていると思う。
弁護士さんが、趣味で道ゆく人の弁護をしますか
学校の先生は休日も趣味で地域の人に数学を教えたりしますでしょうか
否。きっと、否。
それと同じ。
目に見えないものを扱う仕事に携わる者として、一つ言えることは
目に見えないことに時間と労力を費やして日々を生きています。そしてまた時間や労力も同じように目には見えないけど、確かに存在するもの。
その人にとって仕事が如何なるものか、「音楽」がどんなものであるか
信念はあっても、目には見えない。
だから、つまりね
それが伝わるまで、表現したいと思っているし
たとえ意図しない感情を届けることになったとしてもそれを受け入れ、ステージに立ち続け演奏を続けます
病気を治したり、訴訟に勝たせたりはできないけど
ふと心潤う時間を届けられますように。感動と情動による癒しを、音が鳴る世界全体にもたらすように。
それが私たちの仕事。
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