見出し画像

重松清

【青い鳥】
吃音の非常勤講師、村内先生が主人公。
私も吃音だから、言葉がつっかえて上手く話せないもどかしさや焦りはよく分かる。
8編の短編集で、それぞれに問題を抱えた生徒たちと誠実に向き合っていく。

 先生はたいせつなことしか喋りません(重松清「青い鳥」〈静かな楽隊〉)

先生が教えてくれる授業よりもたいせつなこととは。
上手く話せなくても伝えようという気持ちさえあれば必ず伝わる。
ほんの少しの勇気をもらえる小説。

【きみの友だち】
交通事故に遭い足が不自由な恵美ちゃんと入退院を繰り返している由香ちゃんを中心にした「友だち」をテーマにした物語。

この小説を読むと否が応でも学生時代の友だち関係を思い出す。
「そんなことで?」と言いたくなる、思わず顔をしかめたくなるほどの些細な、あまりに些細すぎることでグループを弾かれたり、また合流できたりした。

大人になった今では「そんなこと」と笑い飛ばせるような(現に「そんなこと」を覚えてなんかいない)でも当時の私には世界が崩壊するほどの威力を持った重大なことだったに違いない。 

学生時代の友だちなんて学校が変われば自動的に縁が切れるような不確かなものなのに、その渦中にいる時は「それがすべてだ」と思い込んでしまう。

わたしは『みんな』って嫌いだから。『みんな』が『みんな』でいるうちは友だちじゃない、絶対に。(重松清「きみの友だち」〈千羽鶴〉)

交通事故に遭い足が不自由になり、友だちを失い、『みんな』の輪から弾き出された恵美ちゃんは、『みんな』の輪に戻ろうとするのではなく、由香ちゃんと絆を深めていく。 
『みんな』ではなく由香ちゃんと一緒にいることを選んだ恵美ちゃんの言葉にハッとさせられた。
『みんな』って確かに便利な言葉で、『みんな』が言ってるよ。の一言で有頂天になったり絶望したりできる。
曖昧すぎるふわふわした言葉に惑わされて本当のことが見えなくなる。学生時代は何度この言葉に振り回されたことだろう。

「友だちってなんだろう」誰もが一度は思い悩む疑問にそっと寄り添ってくれる小説。かつて子どもだった大人たちにもオススメ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?