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No.21 命の重さ

とうとう入院の日が来た。

プライバシー保護のためだろうか、
私は個室で入院することになっていた。

一人だけの空間。
自然といろんな事を考えてしまう。

4人部屋で他の方たちと
ワイワイお話ししてた方が気が楽に思えたが
事情が事情なのでそう思うのは無しにした。

入院1日目は子宮口を開くための処置をし
あとは次の日までベット上安静。

ご飯もベッドの上で食べ、
テレビもベッドの上で見て、
冬季課題もベッドの上でやった。

彼と今後どうしようかということも考えた。

彼のことは今でも好きだけど
こんな過ちを犯してしまっているので
私の感情だけでどうにかなる事でもなかったが、

友達にも堂々と言える事ではないし、
隠し事をしてこれから過ごしていけない辛さを
受け止めて支えてくれる誰かが欲しかった。

事情を知っている誰かと一緒にいないと
今後どうしようもなく寂しくて不安だったから。

けれどもそんなわがままを家族が許してくれるとも
思わないので、彼の事は胸の内に
秘めておくことにした。



夜中、トイレで目が覚めた。

何か用がある時はナースコールを押して
スタッフを呼んでね。と言われていたが、
自力でトイレまで歩き、用を足した。

部屋に向かう途中、めまいがし
急に目の前が真っ暗になった。
激しい耳鳴りもしてきて
立っているのが辛くてその場に座り込んだ。

子宮口が開くとそう言う症状が起こると
主治医に言われていたが、こんなに辛いとは。。

数分すると、耳鳴りとめまいは治り
なんとか自力で部屋にたどり着く事ができた。

ベッドに入り眠ろうとした時、
隣の部屋から赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。

元気な声でおぎゃあおぎゃあと泣いている。
自然と涙がこぼれ、止まらなかった。

赤ちゃんを授かって命を繋いでいく病室の隣で
私は授かった命を奪おうとしているのだから。

すごく悔しくて申し訳なかった。

この子も他の女性の元で宿っていたら、
希望と未来がたくさんあるこの世に
産まれてきていただろうに。

命を絶つという事がどれほど重い物なのか。

17歳でもそれは見に染みてわかった。


朝が来て手術の時間が来た。

車椅子で処置室に行き、
麻酔を打った後は覚えていない。

目を開けるとベッドの上で
体の痺れも取れていた。

主治医の話を聞き退院。

母が車で迎えに来てくれて
何か伝えてくれていたが、罪悪感と切なさで
頭がボーッとしていて覚えていない。

帰り道も母とは一言も言葉を交わさなかった。

私は降ろした子に名前をつけ、
主治医からもらったエコー写真の裏に
その子宛にメッセージを書いた。

産んであげられなくてごめんなさい。
責任のない母親でごめんなさい。
今度産まれてくる時は
幸せにしてくれる女性の中に宿ってね。と。

今でもそのエコー写真は大事に大事に
机の引き出しの中にしまっている。

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