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うちの猫の話

我が家には猫がいる。

推定、もうすぐ2歳の女の子。「推定」なのは、もともと拾い猫で本当の誕生日が分からないから。拾った次の日に連れて行った動物病院で、獣医さんから「たぶん生後2ヶ月くらいかな…」と言われたので、誕生日は勝手に6月11日ということにしている。(ガッキーと同じ誕生日である。)

猫を拾ったのは2年前の8月だった。その日私は有給を取っていて、結婚式のプロフィールムービーの素材集めのために実家に行っていた。夕方、自宅に戻ってご飯を作り、仕事から帰った夫と映画「はじまりのうた」を見てのんびりしていた。そのとき、夫が言った。

「子猫の鳴き声しない?」

えー、そう?とか言いながら私はソファーでごろごろ。「絶対鳴いてる」と言ってベランダに向かう夫を横目にひたすらごろごろ。

猫なんて、小さい頃に友達の家のコを恐る恐る触ったことくらいしかなかった。どちらかといえば犬派だった。犬もほとんど触ったことないけど。

「いるよ、鳴いてるよ」と言う夫に促されてベランダに出ると、夜道の車道をチョロチョロ動く影が見えた。鳴き声も聞こえた。「ニャーニャー」ではなく、「ビャービャー」だった。

実家で猫飼い経験のある夫は、車道でうろうろする子猫が気が気じゃない様子。
どうすれば良いのか分からないながら、私たちはとりあえず外に出てみた。猫は見当たらなかったけど鳴き声は聞こえる。探してみると、子猫はすぐ目の前の中華料理屋の脇で縮こまっていた。

どうする?保護する?どこかの家の子?分かんない。え、どうする?……となった私たちは、とりあえず、、ということで、子猫を引っ張り出し、家から引き出物が入っていた紙袋を持ってきてその中に入れた。猫は我が家にやってきた。

子猫は本当に細かった。目は開いていたし、怪我はなさそうだったけれどだいぶ汚れていた。それにずっと鳴いていた。とりあえず段ボールに入れて、とりあえずタオルであたためて、とりあえずコンビニで買ったご飯を与えてみて、とりあえず、とりあえず……だらけで一夜を過ごし、その一夜の間ずーっと子猫は鳴いていた。

迷い猫ではなさそうだったけれど、野良猫が家族とはぐれたのか、人間に飼われていた子が捨てられたのかは分からない。

はじめ、私はこの子の里親を募集する気だった。その頃我が家はペット不可の賃貸だったから。
一つ屋根の下に長くいたら情が湧くと分かっていたから、名前もつけられなかった。

猫の里親サイトを覗いて、すぐに知った。世の中には里親を必要としている猫がたくさんいる。雑種猫の貰い手を探すことの、倍率のなんと高いことか。その中から、この子を安心してお任せできる人を探さなければならない。手間も、時間も、相当かかりそうだった。

そうこうしているうちに、想像通り、猫はどんどん可愛くなって、可愛くてしょうがなくなって、私と夫は猫に名前を付けた。お世話用品を本格的に揃えて、おもちゃを買って、ペット可の家に引っ越しを決めた。

今でも、この子はどこから来たのかなと思う。私たちが拾う前、誰と一緒にいて、どのくらいの時間ひとりぼっちだったんだろう。

子供が生まれる前、産休中で暇を持て余し寝転がる私の横で、同じく暇を持て余した猫が寄り添って寝ていた。安心しきってぶーぶーと喉を鳴らす猫を見て、私はお腹の子に、こんな風に誰かと愛情を結んで欲しいなと思った。猫でも人でも犬でもいいんだけど、愛情で誰かと繋がっていける人になって欲しいなと。

息子が生まれて、さて猫との関係はどうなるかと思ったけれど、猫はすごい。赤ちゃんには一切攻撃しない。かといって可愛がる風でもなく、遠目に眺めたり、トコトコ横を通り過ぎたり、その瞬間に息子がくしゃみをして飛び上がったり、なんだかんだ共存している。

偉いね、あなた。この子は弱いって分かるんだ。言葉が通じないから、急に来た新メンバーにはさぞ戸惑ったことでしょう。なのに攻撃するでもなく、ちゃんと観察して、自分のペースでその存在を飲み込んで、本当に偉いねえ。見習わないとね。

息子はまだ赤ちゃんだけど、頭のどこかではいつか離れていく存在だと分かっているので、「ずっと一緒にいようね」はなんとなく怖くて私は言えない。けど、猫には言う。めちゃくちゃ言う。ずっと一緒にいようね。ずっと一緒だよ。

とはいえ、私と猫は女同士、なんか性格も似ているので、よく喧嘩する。たぶん今日も一回くらいは喧嘩するだろう。でも、喧嘩してもすぐに仲直りする。そんなところ、私と母にもちょっと似ている。

猫はいま、キャットタワーの一番上で、ベランダの向こうの外を見ている。

小さくて柔らかくて温かいあなたが大好きだよ。ずっと一緒にいようね。うちに来てくれてありがとう。

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