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茅葺きごもく考 #1

 自己紹介もせず、茅葺の説明もせず、ごもく含め種々の専門チックな用語の説明はのちに譲っていきなり始める初noteです。どうぞよしなに。

 茅葺きごもく考では"茅葺き"と"人"そして"自然"の間で資源の交替を実質的に媒介している要素の1つであると目下目される"ごもく"が、茅葺き屋根の生活環の中で如何にして代謝されるかを徒然綴る予定です。

「はぁ?」 
という人のために噛み砕きますと、要はかっこいい屋根を作る時に出る副産物の話をしようぜ! ということです。初めまして、茅葺き職人丁稚の圓山です。自己紹介は後日また。

ごもく?

 とはいえごもくの説明は早々に済ましておいた方が良いと判断したので先ずは辞書を引いてみましょう。

ごもく【×芥】の解説
ごみ。あくた。
「人の住家に塵 (ちり) 、—の溜る程、世にうるさき物なし」〈浮・一代女・三〉 

デジタル大辞泉(小学館)

 要はごみのことです。さらにみてみると……。

ご‐もく【五目】の解説 から一部抜粋
五つの品。5種。
種々のものが入りまじっていること。「—焼きそば」 

デジタル大辞泉(小学館)

 焼きそば!?
 まあ、併せて、いろいろ雑多に入り混じったごみ……的なニュアンスの業界用語で、僕の修行しているくさかんむりでは主に茅のくずに対して使われます。

 ごもくと一言で言ってもその中には新しい茅を加工した時に出るもの、古い茅葺屋根を葺き替える時に出るもの、大きいもの小さいもの……性質の異なるユニークなごもくたちが日々の現場を彩ってくれています。

 どんなごもくがどんな時に出て何に使えるか考えて紹介していくのも茅葺きごもく考の狙いの一つです。


#1 ダスト

 ごもくを大別するマトリクスはその朽ち具合(朽ち度)と大きさ、茅の部位の3軸で構成されます。(というかそういう事にします)

 これから考えていくダストについても朽ち度を10までとして、各要素を表現すると

  • 朽ち度:10(最大まで風化)

  • 大きさ:1mm以下〜数mm(粒子状)

  • 茅部位:任意の部位(不問)

 こんなところでしょうか。最初に扱うには想像し難いですが、とにかく屋根の上でこれ以上は状態が進行しないであろうごもくであります。
 
 なぜそんなものを第一回にしたかと問われれば、なんとなくいい写真と動画が撮れたからです。思い立ったが吉日、ねーちゃん!明日って今さ!という訳。

 ただし一般に朽ち度が大きくなっていくと大きさは小さくなり、茅部位の別も意味をなさなくなっていくだろうことが予想できますのである程度マトリクスを横断的に同一のごもくが占めることも多々あるでしょう。

 兎にも角にもダストってどんなの? ということで動画をご覧ください。

 見ていただいた通りサラサラの砂か土のように見えますが、全て屋根の上で風化した茅です。こんなごもくをダストと名付けて扱っていきたいと思います。

ダストはいつ出るごもくなのか

 そんなダストはどんな時に手に入るごもくなのでしょうか?

 屋根を葺き替えるときに僕らはまず屋根の上に生えている苔や地衣類、植物なんかをガンジキ(熊手)で掻き落とします。そして一通り掃除。

時間が経った屋根表面はこんな感じになっています

 その後古い茅を取り去っていくのですがこの作業をめくりと言います。
 よく晴れた風の気持ち良い日、めくりの作業中に茅と茅の隙間に溜まっていた細かい何かが華麗に舞い、そして遍く茅葺職人の目に入ります。痛ってえな! 青い空にぼやきは虚しく吸い込まれていきます。

 そう、ダストです。

 ただこのままでは他のごもくに混ざった状態で単離できていません。職人も涙目のままです。

 めくりの作業中は後々掃除が楽にできるようにグリーンネットという細かい網目状のシートで足場を養生しているのですが、ダストはこれを通過してしまいます。篩の役割を果たす訳ですね。

グリーンネットにキャッチされたごもくたち

 めくりが終わり一通り大きいごもくを掃除し終わってグリーンネットを片付けると後には篩にかけられたダストが残っているのです。

こんなふうにね!

 とはいえ色々混ざっています。大きな茅くず、乾いた苔、昆虫なんかも。まさにごもくです。

ダストは何でできているのか

 次にダストの構成分を考察してみましょう。

 まずは風化してボロボロになった茅、これは間違いなく含まれているはずです。そして周りの樹木からの落ち葉などもあるはず。

 さらには屋根面にはそういった腐植や植物遺体を分解する生物、例えばヤスデやワラジ虫、種々の幼虫なども多量に生息していますから彼らの糞や脱皮殻も含まれています。それを食べにきた鳥の糞も。

 また分解者は虫だけでなく、地衣類も茅に含まれるリンや硫黄分を頼って生えてきていますし、(屋根的に好ましくないですが)常に湿った場所には蘚苔類も生えます。
 もちろん菌類も最上位分解者として君臨しているでしょう。
 
 ダストに含まれるものは、このように茅葺屋根表面の生態系がそれぞれ摂食、排泄、繁殖を繰り返した末に残ったものが全て粉々になったものと考えて差し支えないように思います。

 先ほどは全て屋根の上で風化した茅だと書いたのですが、少し訂正が必要なようです。 
 炭素や窒素、リンなどの存在比もわかれば良かったのですが、キットが高価すぎるので何かでがっぽり儲けた後の自分に託します。

ダストの性状と活用実例

 ダストはその名の通り粉状です。
 ここまで細かくなってしまうと意外と水を弾くようになり、保水力はあまりありません。小麦粉にいきなり水を混ぜようとしても弾かれるあれです。    

 しかし適切に土壌に混ぜれば速やかに馴染んでいくことは想像に難くありません。どうしても掃除しきれないダストが毎現場発生しているはずですが、終わる頃にはほぼ視認できなくなっています。

 またダストは一度で取れる量に限りがあり、一現場でせいぜい土嚢ぶくろ数体程度といったところ。

 以上の性状を加味して、どのように活用されているかの実例を示したかったのですが今のところダストを選択的に使っているという話は聞いたことがありません!ニッチすぎる気がしないでもないし勉強不足もあります。ダスト情報求む!
 ということで利活用法の提案のみになります。無い知恵を絞ります。

どう使おうかな?
  • 土壌改良剤としての利用

 家庭用のプランターや家庭菜園程度の土であれば少量を混ぜて土壌改善の効果が期待できるのでは? 茅には古くから茶草場農法や堆肥としての利用がされてきた実績があり、インスタントにその代替として使えそうな予感。

  • アートワークなどの素材

 個人的にやってみたいのはこっちで、茅葺屋根の数ある本質的な要素の一つには、朽ちていきそして葺き替える。その過程で資源の交替があり、生態系が健全に維持される(人の生活も含めて)。いわば生態系のポンプとしての役割があると思っています。里山の心臓?
 これを的確に表す素材としてぴったりなように感じます。

 つらつらと駄文を書き綴ってきた訳ですが、ごもくごもくと五月蝿い!という方が大半(というほど読まれるのか?)だと思いますしどこに需要があるかもわからないニッチな関心を吐き出したnoteになりました。

 ただごもくを適切に扱うことは茅葺職人が気にしていかなければならないことだと思いますし、特権的なお楽しみであるとも思ってます。楽しい!

 うちではこういったごもくはこのように使っているよ!や、ごもくの成分分析してみたよ〜とか、素人質問で恐縮ですが。などお待ちしております。

 次回もごもくのいい写真や動画が撮れたら更新します。

 読んでいただきありがとうございました。アディオス、順風多難イリュージョン。


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